令和時代の残業代
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最近の残業代に関する大きな変更点
令和に入り、残業代に関連していくつか法改正が行われています。
まずは2020年に、残業代請求の消滅時効期間が2年間から3年間に延長されました。
さらに2023年から中小事業主について猶予が撤廃され、全ての雇用者について、60時間以上残業した場合の残業代の割増率が最低1.5倍となります。
今回は、消滅時効や残業代計算の基本的な部分に触れつつ、この改正部分2点について、解説していきたいと思います。
消滅時効期間の延長
前提として、消滅時効とはなにかということについて軽く触れておきます。
消滅時効とは、端的に言えばお金等の請求権のうち、特定の期間を経た古いものを文字通り消滅させる、という法律上の制度になります。
そして残業代の消滅時効の期間とは、残業代の請求権がどの程度の期間で消滅するかという話、つまりどの程度昔まで遡って残業代を請求できるか、という話だと考えて頂ければと思います。
去年の改正で何が変わったのかを具体例で考えてみたいと思います。
2025年8月に請求すると仮定いたします。改正前ですと2023年8月分までの2年分しか請求できなかったわけですけど、改正によって2022年月分までの3年分を請求できるようになりました。
ただし、一つ注意点がございます。2020年の4月1日以降に発生した残業代が改正法の対象になりますので、2020年3月末までに発生していた残業代は消滅時効の2年間のままであり、2022年4月1日までには時効期間が経過しています。
結局のところ、3年前まで遡って残業代を請求できますが、法律が変わった2020年4月1日より前には遡れない、と考えて頂ければよいかと思います。例えば、2022年8月に請求したと仮定すれば、3年前の2019年8月まで請求できるわけではなく、2020年4月1日分以降しか請求できないということになるわけです。
消滅時効期間の改正は実際に残業代の未払いが問題にならないと実感がわきにくい点だと思います。しかしながら、事後的に請求するあるいは請求される場合、1年分が追加で認められるとすると、額面にすれば残業代が1.5倍になりますので、金額が大幅に増えることになります。雇用する側もされる側も、未払の残業代がないかはよく気を付けておいた方がよいでしょう。
残業代の割増率の変更
また前提として、残業代とはなにかを確認しておきます。
端的に言うと、残業代とは勤務時間を超えて働いた分の賃金、ということになります。そして法律上、労働時間が1日8時間を超える場合や週40時間を超えて働いている場合には、普段の時給額1.25倍以上の割増賃金を残業代として支払わなければなりません。
具体例で見てみますと、9時から18時勤務・途中1時間の休憩を挟んで働く人であれば、勤務時間は8時間ということになります。仮に22時まで残業したとすれば、給料は勤務時間である8時間分しか支払われていないわけですから、残りの4時間分については普段の賃金を1.25倍した割増賃金を残業代として支払わなければならないことになります。
そして来年からの変更点になりますが、すべての雇用主について、60時間を超える残業については、1.25倍でなく、1.5倍以上で残業代を計算しなければならないことになります。
具体的には80時間の時間外労働をしていた場合、今までは80時間分について1.25倍で単純に計算することができました。しかしながら、来年からは60時間分は1.25倍、60から80時間の20時間分は1.5倍で計算する、ということになります。この60時間以上で1.5倍になるという法改正そのものは既になされていたのですが、大規模の事業主のみ適用されており、中小事業主には60時間以上の基準の適用が猶予されていました。この猶予がついに来年解除されますので、全ての雇用主について、60時間を超える場合の割増率が適用されることになります。
60時間以上の残業代について計算方法が変わりますと、やはり長期間の労働がどうしても多くなる業界は影響が大きいかと思います。長距離運送、建設業、医者、看護師等の比較的労働時間が一般的に長いとされる業界は、残業代が大きく変わってくることが予想されます。
また、計算方法が変わりますが、単純な時間×割増率で割増賃金を支払っているのではない会社は要注意です。例えば、日給の中で通常の賃金と残業を見越した固定の割増手当を区別して支払っているような会社ですね。そのような給料の支払い方法であっても、割増手当分で通常の1.25倍を超えていれば問題がありませんでした。ただし、このような支払い方をしている場合には、時間外労働が60時間を超えた場合の割増の倍率が上がることで、時間外労働が60時間までは適法ですが、60時間を超えた場合には違法になる可能性があります。
時効の期間の話と異なり、普段の残業代の計算方法そのものが異なってくる話ですので、来年の法改正に備えて、雇用側も労働側も、一度契約書や就業規則を確認してみてはいかがでしょうか。
著者プロフィール
田中大地 弁護士
おくだ総合法律事務所
司法修習74期
福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了