つきまといへの対応策

こんにちは、弁護士の田代です。
今回の動画では、「つきまといへの対応策」について解説いたします。

”つきまとい”というと、皆様はおそらく男女の問題だとかを連想されると思いますが、つきまといは、弁護士の業務でよく問題になります。弁護士の業務は人と人とのトラブルの解決というのが本筋です。人と人がトラブルになっていると、家に押しかけるとか、あるいはどこか関係者の所に連絡が来て困っている。そういったものは男女の問題に限らず、人と人とのトラブルである限りはよくよく起こるものです。そういった点でトラブル解決の一つの方法として、つきまといへの対応策というものは必ず考えておくべき問題です。今回この点について簡単に解説いたしますのでよければお付き合いください。

つきまといへの対応策

つきまといへの対応策というと、ざっくりとした法律のメニューとか手続きのメニューとしてスライドに記載のものがございます。
一般法としての刑法。
あと、特別法。特別に定められた法律として皆様が連想しやすいストーカー規制法。
さらにこの他に、条例の活用もございます。条例は各都道府県によって内容は異なります。例えば福岡県だったら福岡県迷惑行為防止条例といった条例がございます。
他に、民事の手続の活用もございますので順番に見ていきましょう。

一般法=刑法

まず刑法での対応です。
刑法でつきまといに対して役に立つものとして考えられる条文としては、住居侵入等がございます。ポイントとしては 二つ。一つは人の家や建物に侵入した時には刑罰が科されるというのと、もう一つは、出て行ってくれと要求を受けても出て行かない・拒否をしたもの、これに対しても刑罰が科されるといった内容になっています。前段が住居侵入・建造物侵入、後半は不退去罪と言われます。

住居侵入について個人の家で考えると、つきまといのために庭や敷地内に入るというような時には、住居侵入だといえるケースはよくございます。
もう一つ、集合住宅・マンションの時には共用部分に入るということも正当な理由がない時には住居侵入。つまり、つきまといのためにオートロックのかかってる玄関の外側のホールに入って待ち伏せをするとかいうことでも、住居侵入で対応できることがございますので、これはよく覚えておくと使えると思います。
同じく、庭とか共用部分とかに入られた後に、出て行ってくれということを要求しても相手が従わない時に、警察に動いてもらえるという対応がございますので、まずこれが使えるんじゃないかなと思います。

ただ長所と短所がございまして、長所は、刑法なので罰則が強いんですよね。3年以下の懲役又は10万円以下の罰金。罰則が強く警察も動いてくれやすい。ただ短所としては、対象が狭い。つまり今回で言うと「住居への侵入」なんですよね。門扉をくぐって中に入るとか、共用部分もそうですけれども、広く解釈することで活用ができるんですが、それでも侵入というものに限られているという点で対象が狭いという問題がございます。

このほかに刑法では、業務妨害とかです。営業してる店舗や事務所に何十回・何百回電話をかけてくるといった時とかには業務妨害とかもありますが、それもそういう特別なケースに限られている。業務じゃないといけませんので個人だと使えないとか、いずれにしても刑法については対象が狭いという問題があります。

どうしても罰則が強いと人の行動の自由を制限するという面があるので、その分対象を明確に狭めるという考え方、これは昔からの法律の基本です。そういった点で刑法には長所と短所があります。

特別法=ストーカー規制法

対象をもう少し広げようということで作られた法律が、ストーカー規制法。つきまといで使えそうな言葉としては、何人も、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない。
と書かれています。
さらにこれについても1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処するという罰則もございます。
どういうものかというと、一つはつきまとい。つきまといなどをしてはいけません。それをすると罰則になるということ。
もう一つは、位置情報無承諾取得等。これはスマートフォンとかのGPSなどで位置情報をこっそり取るというような行動もやってはいけないという制限がございます。かなり使えそうですし、しかも罰則もあるんですね。(住居侵入等では懲役)3年のところ、(ストーカー規制法では懲役)1年に減りますけれども、罰則もあるということで、これは使えそうだというのがございます。

しかしここにもやはり制限があります。二つの制限がございまして、一つ目が厄介です。
つきまといなどで位置情報を得るのも同じなんですけれども、恋愛感情その他の好意の感情を持ってのつきまといあるいは位置情報の取得やGPSの取得、又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的での行動に制限されています。

もう一つは、つきまといなどをする相手とかその配偶者、あるいはお母さんや子供とか家族ですよね。あるいは社会生活において密接な関係を有する者。同棲している恋人だとかそういう対象に対してのつきまといなどの行為ということで、また対象の制限がされるというのと、あと目的の制限がされています。
特に目的の制限がネックになることが多いです。例えば闇金等からの執拗な取り立て行為があったときなど、好意の感情かその裏返しでの恨みの感情、こういった目的がないと、このストーカーの行為で規制することはできないという点で、どうしても限界がございます。

ただ好意の感情とかその裏返しの行為であれば、建物の侵入ということ以外にも広く使える。つきまとい行為やGPS の取得行為に関して広く使えるという点では活用できるケースもよくありますので頭に入れておいてください。

条例

こういった点でどうしても制限対象外になってしまうというようなケース。さっきの執拗な取り立てもそうですけれど、意外と使えるのが条例なんですよね。都道府県が作るものですので都道府県によって違いますが、例えば福岡県ではこういったものがあります。
「嫌がらせ行為の禁止」というタイトルで、誰でも正当な理由がなく誰かに対してこういったことをしてはいけないということで、つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居等の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。
行動場面としては非常に使えそうな気がしませんか。さらに2番以下にもいろいろな行為が列挙されています。そういった意味でつきまといや嫌がらせについて、正当な理由がないという制限はもちろんございますが、かなり対象が広くなっています。また、都道府県によって違うとお伝えしましたが概ねどこの都道府県も同じような条例があります。

このような条例があると、警察に動いてもらうということも経験上ございます。警察から警告を出してもらったり、度が過ぎると立件ということもございますので、こういった規制を知っているか知らないかというのでかなりできることは変わってきます。

条例は、罰則は弱いのですが対象が広い。こういった長所と短所がございます。先ほどの刑法とは、長所と短所が逆転してるので、こういった様々なメニューの活用が考えられます。

その他

最後に、その他。
どのようなものがあるのかというと、例えば、ぶつかって怪我をしたと言って執拗に連絡をしてくる人とかに対して、弁護士として私が経験がよくあるのは民事調停をしたり、賠償義務なんかないといったことの確認とか、調停で向こうが応じなければ裁判。そういった裁判もできるんですよね。何か払えという要求をする裁判ではなくて、いやいや払う必要がないということを裁判所に認めてもらうことも出来ますし、あるいは逆に、あまりに状態がひどければそれによってこちらが損害を受けたと慰謝料を請求するということも考えられます。

あと、債務整理も考えられます。普通の金融機関はつきまといなどは普通はしませんけれども、金融機関からの通知とかがバンバン来て、でもお金を返すこともできないという時には、弁護士のほうが債務整理をします。例えば破産とか民事再生です。弁護士がつきました、これからそういう手続きをします、という通知を出したら、金融機関からは直接本人に請求することはできなくなります。その時点で不安な状態を解消することが出来るというメリットはあります。闇金みたいなものであればなおさらですよね。破産や民事個人再生のような手続きをしなくても、もうこちらからは返還する物はないんだと、先ほどの裁判じゃないですけれど弁護士がつくことでお役に立てることはいっぱいあります。

以上、今回の動画では「つきまといへの対応」ということで、一般法・特別法・条例・その他ということで解説してきました。
それぞれ長所と短所がございますので使い分けることが大切です。
お困りのことがございましたらぜひ弁護士にご相談いただければと思います。

著者プロフィール


田代隼一郎 弁護士

おくだ総合法律事務所
平成24年弁護士登録
福岡県弁護士会所属
熊本県熊本市出身
真和高校卒
九州大学法学部卒
大阪大学大学院高等司法研究科修了