退職~やり方と注意点
こんにちは弁護士の田代です、今回の動画では「退職」という制度について解説いたします。
従業員からの退職、つまり仕事を辞めたいという相談は弁護士もよく受けます。そこで今回は、その退職のやり方と退職をするときの注意点について解説していきます。
Table of Contents
退職の基本
退職の基本的な考え方です。なにより退職することは憲法上許されてるということになってます。具体的には日本国憲法の18条では
第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
と書かれています。この苦役の中には意に反するきつい労働などが含まれます。
第22条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
嫌な仕事をしたくない、職業を辞めたいということも憲法22条で保障されています。このように、退職は単なる法律だけではなくて憲法で保障されていまして、しかもかなり重々しい言葉でなされていまして、これは昔の奴隷制度を廃止するとかそういう理念に他ならないんですね。その中で退職は許されるということで、これは退職の権利がある、日本国民には退職の権利は保障されている。それぐらい重く考えていただいて良いんではないでしょうか。
これは法律家にとっては当たり前、しかも歴史的な事なんですが、これが意外とまかり通っていなくて、辞めたいのに辞められない、辞めさせてもらえない、どうしたらいいか、と悩んでおられる方って結構いらっしゃるんですよね。私には信じられないし、そのような世の中があってはいけないと考えておりますので、悩んでおられる方は今回の動画を見ていただきたいと思います。
退職のやり方
退職届を提出する
退職はまずできます。次にそのやり方について説明します。
オーソドックスなやり方、これは「退職届」という書類を提出する。
退職届は皆さんもご存知かと思いますが、どんなものかと言いますと、 例えばこういうものですね。
勤務先の住所が書いてあって、その下に勤務先の名前があって、なんとか御中、退職届というタイトル。次に令和何年何月何日。これは退職届を提出する日を書いたらいいんじゃないかなと思います。細かいところは重要ではございませんが、その下に退職される方の住所と氏名、特に差し支えなければ印鑑を押していただいてもいいと思いますが、そこも絶対ではございません。
本文として何を書いたらいいのかというと、とてもシンプルな話で、ただ一身上の都合により、いついつ付(※ここ大事です)で退職しますというふうに、この日に辞めますということを明示する。注意点としてはそれぐらいですね。
こういうシンプルな退職届で結構ですので、それをきちんと出す。それが大事かと思います。
提出の方法
次に、退職届をきちんと出すと言いましたが、提出の方法ですね。これについてもざっと見ていきます。
1 郵便(内容証明郵便+配達証明付)
一番おすすめなのが郵便です。郵便も条件がございまして、内容証明郵便に配達証明をつける。大きな郵便局に行ったり、電話で問い合わせされたらいいと思います。この内容証明郵便は郵便局窓口で出すことができます。大きな郵便局に限られてますので、事前に確認されてから行ったら無駄足は防げるのではないかと思います。
あと、e内容証明というサービスも郵便局が出していまして、インターネットのブラウザ、エクスプローラーとかクロームとか、パソコンのインターネット環境があればそちらで出すこともできます。つまり自宅から出すことも可能ですので、こういったサービスも良かったら検索されてみてください。
e内容証明の説明
https://www.post.japanpost.jp/service/enaiyo/
e内容証明サービスURL
https://e-naiyo.post.japanpost.jp
変更後(2022年2月21日(月)以降)のURL
https://webyubin.jpi.post.japanpost.jp
2 上司に手渡し
退職届は、郵便が一番おすすめなんですが、上司に手渡しをすることもできます。これは出す時にはコピーをとっておく。ちゃんと出したと。後でそんなもの受け取ってないと言われたり、何か間違いがあったりしてはいけないので、これだけ気をつけてください。
上司に渡す時にはコピーを1部取っておく。原本は渡して、コピーについては受領日(今日の日付)と渡した人に名前を自分で書いてもらう。そうすればこの日にこの人に渡したということがわかりますので、そんな形にしていただいたらいいと思います。
3 その他(電子メール、SNS、口頭)
実は、退職のやり方は割と自由で、決まってないんですよね。なので電子メールでこの日に辞めます、というメールを送る方法もありますし、あるいはソーシャルネットワークサービス、たとえば LINE とかでもそれで辞めます、ということもできます。さらには口頭(口で言うだけ)でも法律上は退職はできるということになりますが、こういった場合は手渡しと同じで、受け取ってないとか聞いてないとかそういう話にならないように注意してください。なので、例えば電子メールとか LINE とかそういったものを使う時には、「一言返事ください」と言うこととか、あるいは、口頭の時には録音するとか、その辺りを注意していただければと思いますが、その辺りを考えると郵便というのが何より手軽なんじゃないかなというふうに思います。
退職の注意点
1 退職したい理由を確認する(退職勧奨、サービス残業、ハラスメント……)
次は退職の注意点について見ていきます。
一番目、まず何よりも「退職したいのはなぜか」ということを、一度自問自答してください。理由が、例えば上司からやめてくれとしつこく言われてるとか、あるいは残業ばっかりしてるのに給料に反映されない。あるいはセクハラ・パワハラといったハラスメント。こういったケースの場合には、退職される前にただそれで辞めるんじゃなくて、職場の環境を変えないといけないんじゃないかということで、先に弁護士に相談頂いた方が良いと思います。
2 契約内容を確認する
1 無期(期間の定めのない)労働契約
次に、契約内容を確認するということも退職をするときは重要です。この点は特に大事ですので少し詳しく見ていきます。
契約内容の確認。雇用契約書とか労働条件通知書とかそういったもので自分の契約を見返してください。
無期(何年で勤務がおしまい、そこからまた更新するかどうかという話になるなど、そういう勤務の期限が特に決まってない)の場合には、退職をする前に事前に予告をする必要がございます。この”事前に”というのはどれぐらい前に予告しないといけないのかというと、ここはちょっと複雑です。インターネットで検索すると、ブログとかオンラインのメディアの記事などで退職のやり方について解説されていても、詳しく書かれてないことも多いです。一応これが正規のルールだということで、せっかく弁護士が解説するので少し細かく見ていきます。
時給制・日給制の場合
給料の支払い方法によって違うんですね。時給制や日給制で給料が支払われる時、働いた時間や働いた日で給料がわかる、その時には2週間以上前に退職の告知をする。つまり、2週間以上前の退職の告知というと、先ほどの退職届でいうと何月何日付けで退職しますと、そこを何日にするか、あるいはそこを何日にした時にいつ出すのか、そういった観点で見ていってください。そして2週間以上空けてください。
月給制の場合
月給制の場合には、働いた日に応じて給料が1日にいくらと調整されるのではなく、月にいくらと決まってるので、途中で辞めるとなった後も給料を払わないといけないリスクが出てくるので、そのあたりは調整がございます。
具体的には、月の前半に退職届を出す場合。例えば1月13日とかに退職届を出す場合には、1月末をもって退職します、というようなことが可能です。 ただ、月の後半に出す時。例えば1月20日に退職届を出す。これで今月末に退職します、というのはちょっと急なんですよね。なので、後半の時には翌月末まで間隔をあける。細かく言うとこういうルールがございます。
ただ、このルールがあるから頭を悩ませてなかなか出せないというのもナンセンスですので、後でも解説しますが、基本はいつでもやめられる。もう一つは、今この形で辞めて勤務先に大きな迷惑がかかる、その時は控えてタイミングを見ていただく。でもそうじゃなければある程度気軽に提出されてもいいのではないかというふうに思います。
2 有期(期間の定めのある)場合
次は2番。契約はいつまでですというふうに、期間の定めがある場合について見ていきます。
これは勤続年数によって変わるんですよね。
勤続1年を超える場合。例えば3年間の契約で1年目が終わった後2年目に入っている、こういった時には先ほどの無期のケースと同じです。なので基本的には2週間前とか細かいルールはありますが、ある程度自由に出して頂いて構わない。
勤続1年以内の場合。長く働く予定だったのにまだ1年も経ってない場合には、一応法律上はやむを得ない事由がないと退職できない、というようなことが書いてますが、この場合の「やむを得ない事由」ってなんだ?自分が病気になるとかでないと退職できないのか、と萎縮されてしまう方がいらっしゃると思いますので、だからこそ先ほどの憲法の保障ですよね。「退職の権利」ということを改めてよく思い出してください、頭に入れておいてください。
やむを得ない事由。こんな書き方をしていますが、そうたいした話ではございません。結局、先ほどの通り「会社を困らせる辞め方はしない」。この一点につきます。なので、やむを得ない事由がなければ退職できない、退職が無効になるのか、明日も働かないといけない…そんなことではございません。もしこういったこういったケースで辞めてしまった時に、それで会社に損害が発生した時です(ちゃんと目に見える損害で)。「確かにこの形で辞めたら会社もこんな出費がいるよね」と裁判官が納得するような損害が出たら、その損害を会社が請求できることがある、と。それぐらいなんですよ。なので目に見える・困らせる辞め方をしない。これだけ気をつけていただければ、「退職の権利」です。こちらが憲法上認められてる。そういう考え方で退職に臨んで頂ければと思います。
3 付随事務を確認する
3番目。付随事務を確認する。
退職に伴ってよく出てくる問題ですよね。これについてざっと見ていきます。
1 年次有給休暇の処理
まず、退職するときに有給休暇が残ったまま退職するというのはちょっと勿体ない。「(有休を)買い取ってくれ」とは今の制度上は言えないんですよね。ですので、何月何日付けで退職するというふうに決める時に、その前に有休を消化するということも頭に入れていただいてもいいんじゃないでしょうか。
2 誓約書(秘密保持・競業避止)のやりとり
次に、誓約書のやり取り。
よく辞める時に会社の方から「誓約書に一筆ください」と言われることがございます。秘密保持(秘密を守ってくれ)という誓約書だったり、同じような競業会社に就職しない、とかそういう誓約書だったりがよくございます。が、これは「やりとり」と書いていて「提出」とは書いてない。なんでかと言うと、提出する義務はないのです。書いてくれと言われて「嫌です」、それでも構いません。こちらとしては退職届を出せば辞められるという制度ですので、そういう条件はございません。
3 退職金・未払賃金の受領
次に3番目 。退職金とか未払賃金。
これは会社から最後に支払ってもらう必要がございますね。
4 過払金・立替金の支払い
4番目。過払金や立替金の支払い。
これはよく3番とセットで出てくるんですけれども、会社の方から、例えば社会保険料とかそういったものを余計に払ってるという時には、会社が払いすぎた分を精算してほしいというふうに言われることもございます。あと給料が前払い制だったりなどして多く払いすぎてるという時には、返してくれと言われることがあるので、この辺りは事前に金額を確認して、退職後の生活に支障がないようにしてください 。
5 離職証明書(離職票)・源泉徴収票の受領
5番目。
会社の方にぜひ言っていただきたいのが、「離職証明書(離職票)をください」と言えば通じると思います。あと「源泉徴収票」ですね。辞めるまでの給料(通常、1年分の源泉徴収票が12月の末に会社からもらえると思いますが、年度の途中で止める時は1月1日から辞めた日までの分の給料)の源泉徴収票をもらっておく。後々必要になってきますので、この辺りのことも余裕があったらされてもいいのではないでしょうか 。
4 退職届の撤回
退職届の撤回。
そこまで問題になることはないと思いますが、辞めますと言ったり退職届を出したけれども、やっぱり気が変わった・事情が変わった場合、そういった場合は一応ご注意ください。
まず勤務先が「分かった、じゃあまた引き続きよろしく。」という形になれば問題ございません。ただ勤務先が「いやいや、もう退職で処理したんだから今更やっぱりと言われても困る。」となった時なんですが、退職届が勤務先に届く前、例えば郵送で送った後に「郵送でこんなの送ったけれども、やっぱり仕事を続けますので気にしないでください。」と一報を入れていれば、退職届が届く前だったら撤回が可能です。
ただ退職届が届いてしまった後は、勤務先が認めなければ撤回は基本的にはできません。この点は、退職届を出すとか、会社を辞めますということを会社に言う時にはご注意ください。退職届と書いてますが、メールとか口頭で言った場合でも同じ話ですので、先方に届いてしまったら撤回はできなくなるというリスクがございます。「(例外あり)」というのは、無理やり退職届を書かされた場合はまた別の話になります 。
5 退職が困難な場合
次、最後5番目。
憲法で保障されている「退職の権利」がある。やり方についても説明いたしましたが、それでも退職ができない。会社の方がワーワー言ったり家に押しかけてきたり、とこういうケースが残念ながらございます。こういった時にどうするのか。
今、便利といえば便利な退職代行サービスというのもあるんですよね。数万円で、代わりに「退職します」ということを伝えます、と。そういうサービスです。これは私はあまりおすすめはしません。これで良いケースももちろんあるんですが、これ、何をするのかというと、結局先ほどお伝えした退職届を代わりに出すという話ですので、それは郵便局に行ったり、あるいは先ほどのe内容証明というサービスを使えば自宅でもご自身で可能です。
それに対して、勤務先が「いや、そんなの認めん!」といって自宅に押し掛けてきたりとかそういった時にどうするのかと言うと、退職代行サービスは基本的にはそういった問題には対応できません。弁護士法という法律があるのですが、お金を頂いて法律問題に携わるとなると、それは弁護士しかできないのです。
なので、こういったサービスは、結局通知を送っておしまい、というのが基本的なものですので、やっぱり私はトラブル解決という意味では弁護士に相談されるほうがいいと思います。特に、できれば同じ市内や近くの市で仕事をされている弁護士がいいと思います。これはまさに、会社の社長だとか若い男の従業員などが家に押しかけてくるとか、そういったことがあった時にすぐに駆けつけてくれる。そういうことを考えれば、ある程度距離的に近い所の弁護士に相談されるのが良いと思いますし、今お伝えしましたように、この「退職の自由」というところ、非常に重要な憲法上の権利なんですが、これがなかなかまかり通っていないということは、弁護士は皆これについては問題意識を持ってると思います。なので、ただ退職届を出してほしいというぐらいの相談であっても、お客様がそのように悩まれてるのであれば対応してくれる弁護士がほとんどじゃないでしょうか。あとは費用がどれくらいかかるのかという点は事前に聞かれて、それで判断されたらいいかと思います 。
退職代行サービス。最近は労働組合を作ってから、労働組合の立場で交渉するというサービスも出てきております。そこは別に違法というわけではございませんが、ただ、やはり労働組合としてできることにも限界はございますし、また費用面については弁護士とそういったサービスとで比較されたら一番いいと思います。
以上、今回の動画では「退職」について解説いたしました。悩まれてる方はぜひお気軽にご相談下さい。
著者プロフィール
田代隼一郎 弁護士
おくだ総合法律事務所
平成24年弁護士登録
福岡県弁護士会所属
熊本県熊本市出身
真和高校卒
九州大学法学部卒
大阪大学大学院高等司法研究科修了