会社を「引き継ぐ」ときの注意点 事業承継で法律の落とし穴にはまらないために

こんにちは、弁護士の奥田です。
今日は、「会社を『引き継ぐ』ときの注意点」ということで、「法律の落とし穴にはまらないために」と題してお話をします。

例として、お父様が会社をやっていて、もう高齢になったので息子さんが引き継ぐ(息子に引き継がせよう)、というときの注意すべき点について少しお話をしたいと思います。

会社を引き継ぐというときに、お父様が会社をやっておられた場合には、お父様は株式会社(有限会社であればその会社)の代表取締役になっていて、この代表取締役がお父さんから息子に替わることになります。つまり会社を引き継ぐときには、息子さんなり娘さんなりがこの代表取締役に就任するわけですね。
多くの中小企業では、代表取締役が会社の負債について個人保証をしているわけですね。この個人保証(金融機関から借りている借入金)については多くの場合、代表取締役が個人で保証していますから、新たに代表取締役になる息子さんは、金融機関から「個人保証をしてください」というふうに求められるわけですね。ここにサインしてください、連帯保証人になってください、ということを求められる。
最近ガイドラインなどができて昔よりはマシになったとはいえ、やはり多くの場合は個人保証をしないといけないということになるわけですね。

そうするとこれは、個人で会社経営にかかるような億単位の負債を個人で抱える、会社とともに負債を抱える、ということになるわけですね。個人で負債を抱えるというのはどういうことかというと、(息子さんだとして)息子さんが個人で家族と一緒に住んでいる個人名義のお家だとか、あるいはお子さんの教育資金だとか、自分たちの家族のために使うお金を貯めていた分、これも全部引き当てになる。つまり、会社がうまくいかないときには全部取られちゃう、という可能性が出てくるわけです。ですので代表取締役に就任して個人保証をすると、非常に重たい負債を背負うことになります。

その上で、この代表取締役というのはどうやって選ばれるのかというと、「株主総会」の決議で選任される。(取締役会)というふうに書いていますけれども、これは取締役会設置会社の場合には、多くの場合”取締役会”の決議で代表取締役を選任するというふうになっていますけれども、取締役会設置会社の場合でも、この取締役会のメンバーである取締役は”株主総会”の決議で決まりますから、究極のところ、株主総会決議で選任されると言って間違いではないんだろうと思います。

大事なことは、一旦代表取締役に選任されたとしても、解任(つまり、選任の反対。クビ。)というのも株主総会で(※多くの場合、過半数で)できてしまう、ということになります。
これは基本的にいつでも解任できるということになっていますので、株主総会、すなわち過半数株主の意志でもって、いつでも首を切られる可能性があるわけですね。
このことは、先ほどの金融債務を個人保証していたとしても関係ないわけです。解任されたとして、銀行から「あなた保証人だから払ってください」というふうに言われたときに「いやいや、私はもう解任されたから関係ないんですよ」ということは全く通じないことになります。

ですので、代表取締役に就任したからと言って安心ではなくて、過半数株主の意向でいつでも解任されてしまうリスクがあるわけです。ですので、過半数株主が誰かということが致命的に重要になってきます。

ですので会社の引き継ぎのときには、ちゃんと株式を引き継ぐ。しかもさっき説明した通り、株式の過半数を引き継ぐ。株式の例えば10%ぐらいを引き継いだとしても、あるいは20%でも、いつでも解任されてしまうわけですから、これはちょっと安心して個人保証とかもできないですし、もうとても安心はできないということになります。

ですので、会社の株を少なくとも過半数は引き継ぐ必要があるということになります。
そこで息子さんとしては、お父さんから「俺が60%持ってるんだから、この60%をお前に全部やるから安心だろう」ということで、そうだねと、お父さんの言うことだけを信じて60%を引き継いだということで安心していいのかというと、それが実はそうではないことが非常に多いと思います。

つまり、中小企業において、誰が何株持ってるかということは、はっきりしたことがよくわからないケースというのが私の経験上大変多く見受けられます。

まず、「登記簿」には誰が何株持ってるかとかいうことは一切書いてございません。
それから、会社は「株主名簿」っていうのを作らないといけない。つまり誰が何株持ってるかの名簿を作らないといけないってことになってますけれども、株主名簿を作ってない会社も非常に多く見受けられるし、正確かどうかっていう問題もあります。
それから、「株券」を持ってる人間が株主じゃないかと思われるかもしれませんが、この株券を発行していない会社というのもたくさんあります。もっと言えば、発行したかどうかもわからないとか、こういう会社もたくさんあります。
ですので誰が何株持ってるかっていうのは、実はそう簡単な問題ではないということに気をつけるべきだと思います。

この問題については別の動画でも説明をしていますので、詳しくはそちらを見ていただければと思いますけれども、いずれにしても専門家が見てもよくわからないような難しいケースもよく見受けられます。

小規模会社の株主の把握 ~「誰」が「何株」持っているのか?
(5月記事)
https://youtu.be/ssqPTN4-XVk

最後にまとめです。
会社の引き継ぎというのは個人保証の提供だということ、これに注意をすべきです。非常に重たい負債を個人で負うことになります。
それからもう一つ、会社の引き継ぎというときには、株式の最低過半数の引き継ぎというのが必要だということで、誰が何株持っているかというのは、これは実はそう簡単な問題ではありませんから、会社を引き継ぐ際、あるいは会社を引き継がせる際には、うちの会社は自分が60%株を持っていると思っているのだけれども、本当にそれで通るのか、ということをしっかり専門家に相談して確認しておくべきだと思います。

会社において「誰が何株持ってるか問題」というのは、平時にはほとんど問題になることなく、ずっと何年も何十年も進んでいく。この問題が火を噴くのは、同族会社であれば同族株主間で争いになったとき、双方に弁護士がついて、自分は過半数持っていると思っていたけれども実はそうじゃなかった…、みたいなケースも結構ありますので、会社の承継の際にはぜひその機会に、誰が何株持っているのかというのを専門家にも相談して、きっちり確認しておくべきだと思います。

今日の話は以上です。

著者プロフィール


奥田貫介 弁護士

おくだ総合法律事務所 所長
司法修習50期 福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高校卒
京都大学法学部卒