消費者契約法の改正~2019年6月15日からこう変わる!

こんにちは弁護士の田代です。
今回は「消費者契約法の改正」というテーマについてご説明します。
サブタイトルは「2019年6月15日からこう変わる!」というもので、皆さんご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、今年の6月15日、まさにこのタイミングで消費者契約法が新たなものに変わります。

法改正自体は昨年の6月15日に改正がされておりますので、今年の6月15日に「施行」される、つまり消費者契約法の制度自体の運用が変わる、このタイミングが6月15日となります。

消費者契約法というのは意外と皆様にとって身近な法律で、物を買ったりあるいは家を借りたりとか、そういった場合にも適用される法律ですので、この機会に法改正の内容についてもしっかりご理解頂きたいと思います。

消費者契約法の改正内容

Ⅰ 取消しの対象となる不当な勧誘行為の追加

まず消費者契約法の改正内容をざっくり言いますと、第一に、取消の対象となる不当な勧誘行為です。勧誘行為に問題があるものは契約を取り消すことができるとされているのですが、そのような行為が追加されています。

Ⅱ 無効となる不当な契約条項の追加

次に、無効となる不当な契約条項。契約の勧誘行為ではなく、契約条項に問題がある、そういったものについても、その契約条項は無効とされています。その幅が広がっています。

Ⅲ 事業者の努力義務の明示

そして3番目に、事業者の努力義務の明示。

こういった大まかに三つの改正内容となっております。

Ⅰ 取消しの対象となる不当な勧誘行為

最初に、1番目の取り消しの対象となる不当な勧誘行為の追加から見ていきましょう。
この不当な勧誘行為ですが、ざっくり言いますと、「誤認行為」「困惑行為」、こういったものが挙げられます。

1 誤認行為

まず誤認行為です。誤認行為というのは、告知=契約の時にどのようなことを伝えて契約しているのか、あるいは伝えずに契約しているのか、そういう説明内容について注目されているものです。

⑴ 重要事項に関する不実告知

1番目、重要事項に関する不実告知。
例えば、家を借りる時に、実は事故物件だったのに、これを事故物件じゃない、という風に伝えて賃貸借の契約を結んだ場合など、そういったことが挙げられます。

⑵ 将来の変動が不確実な事項についての断定的判断の提供

2番目が、将来の変動が不確実な事項についての断定的な判断の提供。
例えば、家を買う時に「ここは確実に地価が上ります」と、そういったことを伝えて信じさせて購入させる、そのような行為が問題とされます。

⑶ 重要事項に関する消費者の不利益事実の故意の不告知

3番目、重要事項に関する消費者の不利益事実の故意の不告知。
例えば先ほどの家を買う例でいうと、実はそこの真横に大きなビルが建つ予定が立っている、そのため日光も当たらない、日差しも遮られる、そういったことを事業者が分かっているのに、それを伝えないで契約させると、そういったことも不当な勧誘行為として取消の対象とされています。

このあたりは今回の改正内容には反映されておりません。もともとこういった行為は規制対象とされています。
ただし、一点だけ、今回の改正によって規制が拡大された点があります。もともと、重要事項に関する消費者の不利益事実の不告知について、「故意の不告知」(事業者が知っていたのに告げなかった場合)に限られていましたが、今回の改正によって、「重大な過失による不告知」(事業者の落ち度の大きなミスによる不告知)も規制対象とされました。

2 困惑行為

「誤認行為」と並んでもう一つ問題とされている勧誘行為が「困惑行為」。これは説明内容というよりも勧誘方法に問題があるとされている類型です。

⑴ 住居、就業場所からの不退去による勧誘行為

まず第一に、住居やあるいは就業場所、つまり勤務先などからの不退去(出て行かない)での勧誘行為。
例えば、ピンポンのブザーが鳴って中に入ってきて、「今忙しいからお引取りください」などと言っても、「いやいやいや、ちょっとだけ話しを聞いてください」などと言って契約をさせる等、そういうケースが考えられます。

⑵ 勧誘場所からの退去を阻害する勧誘行為

次に、勧誘場所からの退去を阻害する勧誘行為。
これはわかりやすい話で、例えば、店舗とか説明会場とかにお客さんを呼んでいる中で、早く帰りたいけれどもそれを引き止める、そういった勧誘行為が取り消しの対象とされています。

この二つももともとある規制対象です。
ここからが今回追加された行為対象になります。

⑶ 社会生活上の経験不足を利用した不当な勧誘行為

まず、社会生活上の経験不足を利用した不当な勧誘行為。これはどんなものがあるのかといいますと、、

① 願望の実現への過大な不安をあおる勧誘行為

まず 、願望の実現への過大な不安をあおる勧誘行為。ここから「不安をあおる」というキーワードに注目して考えていきましょう。
”願望の実現への過大な不安”。例えば、ハローワークとか失業された方が集まるようなところから勧誘をして、「あなたの様子を見てるとこのままでは当分就職なんかできません」と、そういったことを説明して不安をあおって、それで何らかの自己実現のセミナーに契約させる、こういったようなケースが考えられます。

② 好意の感情に乗じる勧誘行為

次に好意の感情に乗じる勧誘行為。
例えば、勧誘する人が対象者に気があるように見せかけて、対象者の好意を引く。それで、交際関係に、または付き合うか付き合わないか微妙な関係を持ちながら、どこか(例えば何かの購入会場)に連れて行って、「購入してくれないともう関係は続けられない」と関係を解消されるという不安を煽るなど。
ここに不安という言葉は出ていませんが、不安をあおる行為の一つだと考えられます。

⑷ 判断力の低下による生活の維持への過大な不安をあおる勧誘行為

次の類型として、判断力の低下による生活の維持への過大な不安をあおる勧誘行為。
これも”不安をあおる”がポイントになります。判断力の低下、例えば高齢者とかあるいは認知症などの病気のある方、そういった方が生活への維持に不安がある(例えば老後の生活資金)、「このままだと生活していけない」など、そういった不安をあおって投資用マンションを購入させる。あるいは、生活の維持は資金面だけじゃなく『健康被害』ですね。健康被害の不安をあおって健康食品を買わせるとか、そういったことも規制対象とされています。

⑸ 霊感等により不安をあおる勧誘行為

さらにこれはわかりやすい、霊感等により不安をあおる勧誘行為。「霊感商法」というもので、例えば小児科とか3歳児の健康診断とかそういう会場などに時々いるんですが、子どもを見つけて、「この子は大変素晴らしい」と最初にものすごくほめるんです。それでお母さんは子どもが大好きなのでそういう方を見ると好意的に話を聞いてしまう、と。”どこが凄いのか”と”ちょっと他の子と違う才能があるのか”と、そう期待させておいて、今度は、「そうは言っても一つ気になるところがある。この子はこのままだと10年後大きな怪我をする、大きな不幸に陥る。」と。そういった形で不安をあおって、なにかお守りを買わせるなど、そういった勧誘が今もやられています。
今も横行しているからこそ、今回の法改正で対象になってるということになりますのでご注意ください。

⑹ 契約締結前の債務内容の実施等による勧誘行為

さらに次は、不安ということとはちょっと違いますが、契約締結前の債務内容の実施等による勧誘行為。
「債務内容の実施」。わかりにくいのですが、契約前つまり契約をしていないのに強引に何かを進めてしまう。
例えば、有名なのが、竿竹屋さんを呼び止めて「竿竹を見せてください」と、そうしたら悪質な業者の中にはもう竿竹を切ってしまうんですよね。そして「もうあなたのお宅に合わせるように切ったのでもうこれは買い取ってもらわないと困ります」と、そういった形で強引に契約する。
あるいは、例えば不動産の営業マンで、「今回この説明のために遠方から飛行機を使ってきた」とか、あるいは「他の重要な案件をキャンセルして来たのでやめるんだったらその部分の費用を払ってください」とかそういった勧誘など。
こういったものが不当な勧誘行為として取消の対象に加えられました。

Ⅱ 無効となる不当な契約条項の追加

 

次に、無効となる不当な契約条項の追加。これについても見ていきましょう。

不当な契約条項、これは勧誘行為じゃなくて契約書(一条二条とある契約書)の中の条項、一つの約束事、そういったところに注目されて、問題のある条項は契約内容は無効とされています。
大きく言うと4つありますので順番に見ていきます。

1 免責条項

まず1番目、免責条項。どういうものかと言いますと、、

⑴ 事業者の責任を免除する条項

一つが事業者の責任を免除する条項。今回の契約でどんな不利益があってもこちら(サービサー側)は責任を負いませんと、そういったものが典型的なものです。
これは従前からあるんですが、

⑵ 事業者が自分の責任を自ら決める条項

これが今回新しく追加されました。
事業者が自分の責任を自ら決める条項、つまり同じような話で、事業者が「責任があると自分で認めた場合に限り責任を負います」と。これも責任を認めないと似たようなものですので、今回明確に規制の対象となりました。

2 解除権に関する条項

次に、免責条項と並んで、解除権に関する条項。これも不当な契約条項がございますので見ていきますと、、

⑴ 消費者の解除権を放棄させる条項

まず、消費者の解除権を放棄させる条項。継続的な契約などで一度契約するともう解約はできませんと、そういったことが典型的なものです。

⑵ 消費者の後見等を理由とする契約解除

次にこれが新しく追加されました。
消費者の後見等を理由とする契約解除。ちょっと分かりにくいんですが、何かといいますと、例えばアパート・家を借りる(マンションでもいいですけれども)。例えば高齢者が多いマンション等で、「”後見になった”(つまり、判断能力が低下された時には『後見』という制度があるんですけれども、そういった制度が利用された)らもう契約は解除します、出ていってください」と、こういう条項が付いてる物件もありますので、そういったことが制限されました。

このほか、(以下の)3番目と4番目、これらは今回あらたに追加された条項はございませんのでざっと見て行きますと、、

3 損害賠償の予定条項

損害賠償の予定条項ですね。
例えば「今回の契約を守らなかったら、ちゃんと代金払ってもらえなかったりしたら、(たとえば)年2割の損害賠償を請求します」というものや、、

4 消費者の利益を一方的に害する条項(一般条項)

次4番目は、消費者の利益を一方的に害する条項、これは一般条項で、まさに「広く消費者の利益を一方的に害する条項は無効です」というルールがあります。
これはつまり、特別に”こんな条項は無効”というわけではなく、利益を害する内容に着目したものなので、非常に重要でよく使われる条項です。

Ⅲ 事業者の努力義務の明示

1 分かりやすい契約条項の作成
2 消費者への情報提供

改正内容の3番目としては、事業者の努力義務について明示(法律の中に明示された)とういうものです。
どういう努力義務かと言いますと、二つあります。
一つが「分かりやすい契約条項を作成してください」と。
次に「消費者への情報を契約をするときにはしっかり提供してください」と。
ただ、いずれも努力義務ですので、これを怠ったからなにか罰があるとか、不利益が直接出るわけではございません。

以上、今回消費者契約法の改正内容について大きく3点という整理をしてご説明しました。
今回の消費者契約法の改正ですが、まさにこの2019年6月15日から変わる内容、という形でご説明しました。
これらは結構、顧問先などの会社から相談を受けるんです。もちろん消費者にとっても関心がありますが、事業者にとっても非常に関心が高いという分野です。
もしご不明な点などございましたら、是非ご相談・ご質問いただければと思います 。

著者プロフィール


田代隼一郎 弁護士

おくだ総合法律事務所
平成24年弁護士登録
福岡県弁護士会所属
熊本県熊本市出身
真和高校卒
九州大学法学部卒
大阪大学大学院高等司法研究科修了