採用内定の取消

 

内定の取消

本記事では、「採用内定の取消」をテーマに、採用内定取消のハードルの問題、会社側として考えられる取り組み、対応策について説明していきたいと思います。
内容としては会社側のリスク管理の問題を中心としておりますが、採用内定者側にとっても為になる内容かと思います。

採用内定取消のハードル

さて、一般的に、企業の採用の場合ですと、採用選考、採用内定、本採用として実際に労働開始、という流れが多いと思います。
内定から労働開始まで期間が空きますので、会社の経営状況や、内定者の行動に問題がある等で採用内定を取り消したい、という場面が出てくることもどうしてもあると思います。

本採用ではないので採用内定の取り消しは容易にできるかと言いますと、実はそれほど簡単な話ではありません。結論から申し上げますと、採用内定の取消は、内定者が留年した等の内定特有の事情で無い限り、一般の労働者を解雇するのと変わらない程度に高いハードルがあります。

なお、今回の記事では深くは掘り下げませんが、労働者の一方的な解雇については、仮に裁判になったとすれば、感覚的には9割方会社側が負ける、それぐらいの程度にハードルが高いものと考えておいてよいかと思います。

採用内定の取消が例外的に認められる特有の事情とはどのようなものかというと、具体的には、
①留年した、
②健康状態からして就労が困難な場合になった、
③学歴等の経歴に重大な詐称があった、
④犯罪行為で有罪判決を受けた、
というような、内定者側に責められるべき事情がある場合には、例外的に取り消しが認められる余地があります。

一方で、上記のような内定者側の事情が認められない場合、例えば経営が厳しくなって人材を採用する余裕がなくなったというような、会社側都合による採用内定の取消はほとんど認められないと考えてください。

採用内定の取消が困難な理由

では、感覚的には本採用後の解雇は難しいことについては理解できるとしても、その前段階である採用内定の段階においても何故取消が難しいのかについて、少し説明を加えておきます。

採用「内定」という言い方はしますけども、採用内定の時点で労働契約が成立していて、本採用とは実際に労働がスタートしているに過ぎない、という理解を裁判所はしています。

本記事の最初のほうに、結論として採用内定の取消は労働者の解雇と同じくらい難しい、と書きましたが、裁判所の理解を前提にすると、採用内定の取消とは雇用契約の一方的な終了、すなわち解雇そのものである、ということになるんですね。
したがって、採用内定の取消も、解雇同様に有効性が判断されることになるため、慎重に検討していただきたいという話になります。

会社側としてのリスク管理


採用内定取消が認められ難いことを今まで述べてきましたが、会社側としては、どうしてもやむを得ず、採用内定の取消という手段を選択せざるをえないという場面が出てくることもあるかと思います。
そのような場合に備えた会社側のリスク低減策としては、①留年等採用内定の取消事由を明記する等、予防的な方策をとっておくことが一つです。また仮に内定を取り消すとしても、②内定を取消さざるを得ない事情を採用内定者にも説明を行い、金銭補償等も含めたうえで、内定者になるべく負担が少ない形を整えたうえで、内定辞退の合意書に署名してもらう、内定を辞退してもらうというような、慎重なやり方をしていただくことも一つかと思います。

ただし、弁護士の意見としては、どこまでリスク低減策に取り組んだとしても、最終的には採用内定の取消は後々争われ、訴訟にもなる可能性というのはやはり低いとは言い切れません。したがって、取消事由は内定通知書等に明記しつつも、実際に取り消しを考えるような場合には、一度取消以外の方法の検討も含めて、法律の専門家にご相談いただいた方がよろしいかと思います。

著者プロフィール


田中大地 弁護士

おくだ総合法律事務所
司法修習74期
福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了