健康増進法が2020年4月1日全面施行-タバコのマナーがルールへ-屋内は原則禁煙となります
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1 2020年4月1日から全面施行される「健康増進法」
今回は、2018年(平成30年)に改正され、2020年(令和2年)4月1日から全面施行(一部対象外あり)されることになっている「健康増進法」について、解説したいと思います。
愛煙家の方にとって、“ちょっと一服”は大切な時間ですが、他方で 望まない受動喫煙によって健康リスクにさらされる人がいらっしゃるのも確かです。今回の改正健康増進法では、この状況をふまえ、施設屋内での喫煙が原則禁止されることになりました。
この動画では、まず改正法のポイントをご紹介したうえで、⑴適用対象の施設を運営する事業者と⑵利用者それぞれの視点から、どのような点に注意すればよいかを整理していきたいと思います。
2 健康増進法の改正ポイント
⑴ 改正法の基本的な考え方は、以下の3つです。
①「望まない受動喫煙」をなくす
→原則として、屋内での喫煙が禁止されます。
② 受動喫煙による健康影響が大きい子ども、患者等に特に配慮する
→20歳未満の人や、患者さん等については、受動喫煙による健康影響が特に大きいことを考慮し、このような方々が主に利用する学校・病院などの施設では、屋内だけでなく敷地内も、喫煙禁止が徹底されます。
③ 施設の類型・場所ごとに対策を実施する
→利用者層の違いや、受動喫煙が他人に与える健康影響の程度に応じて、その施設の種類・場所に合ったルールが定められます。
⑵ 改正のポイント
① 施設屋内は原則禁煙。施設によっては、敷地内も原則禁煙。
先ほど、施設の類型・場所に応じたルールが定められるとお伝えしましたが、これに則って、施設・場所ごとに見ていきたいと思います。
ア オフィス、飲食店、商業施設、鉄道、宿泊施設の客室以外など・・・原則適用
様々な人がいるこれらの施設は、原則屋内禁煙となります。ただし、一定の条件を満たせば、施設内に喫煙専用室を設けることができます。
イ 学校・病院・児童福祉施設など・・・原則よりも対策が厳格
先ほどお話したとおり、子どもたちや患者さんに対しては、特に配慮が必要ということで、屋内は完全禁煙で、かつ喫煙専用室を設けることもできません。また屋外も、敷地内は原則禁煙となります。ただし、屋外であれば、受動喫煙を防止するために必要な措置がとられた場所に、喫煙場所を設けることはできます。
ウ 宿泊施設の客室・・・適用除外
一方、宿泊施設の客室は、アの対象施設から外れますので、これまで通り「喫煙室」「禁煙室」を選択して設けることができます。
エ 経営規模の小さな飲食店(既存特定飲食提供施設)・・・猶予措置
経営規模の小さな飲食店は、事業継続への影響に配慮し、経過措置として、従前の喫煙ルールを継続することもできます。対象となるのは、(ⅰ)資本金5,000万円以下の事業者が運営する、(ⅱ)客席面積100㎡以下の(ⅲ)既存の飲食店です。厚生労働省の推計では、最大で飲食店全体の約5.5割程度が猶予措置対象施設に該当するといわれています。
オ 屋外や家庭等・・・配慮義務
従前通り喫煙可能ですが、周囲の状況に配慮しなければならないという配慮義務が定められています。
② 20歳未満の人による喫煙エリアへの立入禁止
20歳未満の人は、たとえ喫煙を目的としない場合であっても、喫煙エリアへの立入りが一切禁止されます。後で改めて説明しますが、この点は利用者側だけでなく、施設運営者側も注意が必要となります。
③ 喫煙室の標識掲示の義務化
施設内に喫煙室が設けられている場合には、施設の出入口と喫煙室の出入口に、施設の種類に応じた標識を掲示することが義務化されます。
厚生労働省のホームページ(https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/sign/)には、なんと16種類もの標識が掲載されていますので、どうぞご覧ください。
3 事業者・利用者別、注意すべき点
それでは、以上の改正ポイントをふまえ、⑴適用対象の施設を運営する事業者と⑵利用者それぞれの視点から、どのような点に注意すればよいかを整理していきたいと思います。
⑴ 適用対象の施設を運営する事業者
喫煙室の設置を検討するのであれば、以下の点を検討しましょう。
ア どのような喫煙室を設置できるか
改正法では、原則屋内禁煙となり、専用の喫煙室でのみ可能となりますが、設置できる喫煙室のタイプも施設の分類によって異なってきます。ですので、喫煙室の設置を検討している場合は、当施設にはどのタイプの喫煙室が設置できるのか、検討しなければなりません。
喫煙室タイプとそれぞれのイメージについては、厚労省が出しているこちらの画像が分かりやすいので、示しながらお話します。
(厚生労働省HP:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201907/img/02_04b.jpg)
① 一般的な事業者 ⇒ 喫煙専用室 or 加熱式たばこ専用室
喫煙専用室内では、喫煙を行うことはできますが、それ以外の飲食等のサービスを提供することはできません。
他方、加熱式たばこ専用室内では、喫煙が加熱式たばこに限定されますが、飲食等のサービスを提供することができます。
※喫煙専用室は、法律で定められた技術的な基準を満たさなければなりません。
ⅰ)喫煙室出入口で、室外から室内に流入する空気の気流が、風速毎秒0.2m以上であること
ⅱ)たばこの煙が室外に流出しないよう、壁・天井等によって区画されていること
ⅲ)たばこの煙が屋外に排気されていること
② 既存特定飲食提供施設 ⇒ ①に加え、喫煙可能室(店)もOK
先ほどお話した経営規模の小さな飲食店については、喫煙可能室を設置することもできます。喫煙可能室では、飲食等のサービスを提供することができます。
③ 喫煙目的施設 ⇒ 喫煙目的室(店)
シガーバーやたばこ販売店、公衆喫煙所など、喫煙そのものをサービスの目的とする施設(喫煙目的施設)については、受動喫煙防止の構造設備基準に適合した室内空間に限り、喫煙目的室を設けることができます。
喫煙目的室では、喫煙可能室と同様、飲食等のサービスを提供することができます。
イ 標識の設置
喫煙室を設けた場合は、施設の出入口と、喫煙室の出入口それぞれに、正しい標識を掲示しなければなりません。
ウ 各種財政・税制支援の利用
中小企業事業主に対する財政支援として、「受動喫煙防止対策助成金」というものがあります。一定の要件を満たせば、各種喫煙室等を設置にかかる工費や設備費などの経費について、助成を受けられる場合があります。
また、税制措置として、特別償却又は税額控除制度の適用が認められる場合があります。
エ 20歳未満の立入りに注意
先ほどお話したとおり、20歳未満の人は、屋内・屋外を含め全ての喫煙エリアへの立入が禁止となります。
したがって、喫煙可能店の飲食店では、20歳未満の人をお客さんとして入れることができません。また、20歳未満の人を雇用している事業者は、たとえ掃除仕事などであっても、その従業員を喫煙エリアに立ち入らせることができません。
オ 喫煙室のある施設における従業員への対策
各施設の管理者は、従業員の受動喫煙を防止するための措置を講じることについて、努力義務が課されています。たとえば、従業員の動線や勤務フロアについて検討されることが望まれます。特に妊婦さんや呼吸器等に疾患を持つ方を従業員として雇用している場合は、配慮が必要となります。
カ 義務違反時の罰則等
改正法で義務付けられた事項に違反した場合、行政による指導・命令・過料等が段階的に科されます。たとえば以下の義務に違反した場合です。
①喫煙禁止場所における喫煙の禁止
②紛らわしい標識の掲示、標識の汚損等の禁止
③喫煙禁止場所での喫煙器具、設備等の設置禁止
④喫煙室内へ20歳未満の者を立ち入らせないこと 等
⑵ 利用者
利用者の皆さんが気をつけるべきことは、違反した場合に罰則対象となるルールを知っておくことが大切かと思います。以下のとおりです。
①喫煙禁止場所における喫煙の禁止
②紛らわしい標識の掲示、標識の汚損等の禁止
基本的に、屋内は原則禁煙となりますから、喫煙する場合は、まず喫煙可能エリアの標識を見つけるようにしましょう。
また、20歳未満の方は、違反しても罰則にはなりませんが、喫煙エリアに立ち入らないようにしましょう。
4 おわりに
以上、健康増進法の改正についてご説明しました。
なお、各地方自治体によっては、この法律の他に、喫煙にまつわる条例を個別に設けている場合もあるので、ご確認いただければと思います。
特に既存施設を管理する事業者の方は、各自治体の窓口や、あるいは この法律に詳しい弁護士に相談に行かれると安心かと思います。
著者プロフィール
井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属