医師・歯科医師に対する行政処分について 医師法・歯科医師法・健康保険法
こんにちは弁護士の奥田です。
今日は、医師・歯科医師に対する行政処分についてお話をしたいと思います。中身については医師法・歯科医師法の行政処分、それから健康保険法についても話をしたいと思います。
医師法
まず医師法の規定です。ちなみに今日は医師法で説明をしますけれども、歯科医師法もほとんど同じ条文です。今日ご紹介する部分についてはほとんど同じだとご理解ください。医師法では「医師」と書いてあるところが歯科医師法では「歯科医師」となっている程度の違いです。
医師法にはどう書いてあるかというと、まず第四条です。
これは今から免許をもらおうとする場面の規定なんですけれども、
第四条 次の各号のいずれかに該当する者には免許を与えないことがある
ということで、免許が与えられない場合について規定されています。
そこに、、三号ですね。
三 罰金以上の刑に処せられた者
あるいは四号。
四 医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
こういった者については免許を与えられないことがありますよ、という条文があります。
問題は次の第七条です。
七条は免許が与えられた後についても、医師が第四条各号のいずれかに該当し(さきほどの第四条三号・罰金以上の刑に処せられた者であるとか、四号・医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者)、あるいは医師としての品位を損するような行為のあった時、こういう場合は厚生労働大臣は次に掲げる処分をすることができるということで、これがいわゆる司法上の行政処分ということになります。
種類としては、一号、戒告。戒めを告げられるということで、書類をもらうわけです。
それから二号、三年以内の医業の停止です。これはいわゆる車の免許の場合では免停というような感じです。
それから三号、免許の取消。これは車の免許で言えば免取ですね。こういったことになります。
戒告だとか3年以内の医業の停止、免許の取消といった処分になるんだけれども、 第七条には続きがありまして、厚生労働大臣が最終的には決めるんですが、前二項に規定する処分、つまり戒告だとか医業停止とか免許取消し処分をするにあたっては、あらかじめ「医道審議会」というところの意見を聞かなければならない、ということになっています。医道審議会というのはどういうところかというと、いわゆる有識者で以って、諮問機関として「この事例のこの人については免許停止2年が適当だ」とか、そういった意見を決めるわけですけれども、基本的にはこの医道審議会の意見をそのまま厚生労働大臣が丸呑みしてほぼその通りに決定が下される、処分が下されるということになっているという理解で良いかと思います。
ただ医道審議会の方としても、一つ一つの事例について場当たり的に決めるのでは公平性が保てませんから、一応医道審議会としては一定の考え方の基準を決めています。ということで「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」というものを医道審議会として発表しています。
「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10803000-Iseikyoku-Ijika/0000178508.pdf
これについては、ここに書いてある厚生労働省のホームページの中にいろいろなことが書いてあります。例えば殺人とか傷害とかこういった時にはどういうふうな処分をするのかとか、診療報酬の不正請求なんかの場合にはどういう処分をするのか、ということが書いてあります。
明確には書いてはいませんけれども、大まかな考え方についてはここに示されているということになります。
それで診療報酬の不正請求と言いましたけれども、診療報酬の不正請求というのは先ほどの「医事に関し 不正の行為」(第4条四号)というのが大体この診療報酬の不正請求ということになります。いわゆる健康保険を使った治療・診療の時にその保険者に対して過大な請求をしてしまうとか、こういうのが診療報酬の不正請求ですけれども、これも先ほどのお話で、戒告、3年以内の医業停止、等の対象になります。ちなみに先ほどの医道審議会の考え方によれば、診療報酬の不正請求では、基本的には3年以内の医業の停止のうち、大体3ヶ月の医業停止ということになっています。
これが医師法・歯科医師法上の不利益処分ということになるわけですけれど、もう一つ診療報酬の不正請求に関して言えば、医師法・歯科医師法上の処分では3ヶ月の営業停止ということで済むわけですけれども、もう一つ、健康保険法上でも不利益処分がある。
どういうことかと言うと、健康保険を使っての診療というのは、医師・歯科医師なら誰でもできるわけではなくて、保険医としての登録をしていないと保険を使った診療はさせてもらえない、つまり診療報酬を健康保険に請求できないということになるわけですけれども、先ほど申し上げた診療報酬の不正請求をしてしまうと、医師・歯科医師としての資格は3ヶ月の停止で済むわけですけれども、健康保険法の第八十一条というところでもって、
第八十一条 厚生労働大臣は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該保険医又は保険薬剤師に係る第六十四条の登録を取り消すことができる。
ということになっています。
診療報酬の不正請求をしたような場合については、保険医の登録を取り消されますよ、ということになります。そうすると医師免許・歯科医師免許は取り消しにはなりません、3ヶ月だけの停止で済むわけですけれども、健康保険を使った診療ができる立場というのは取り消される、ということになります。
この取り消しの場合には5年以内は再登録ができませんよ、ということになっていますから、診療報酬の不正請求が明るみに出た場合には、先ほどの医師法・歯科医師法上の業務停止3ヶ月ということに加えて、5年間保険医としての診療ができないといったような不利益を被ることになります。
ですので、診療報酬の不正請求は当然ですけれども、その他の罰金以上の刑に処せられるような場面が生じた時には、医師法・歯科医師法上の行政処分の対象になる。診療報酬の不正請求などの場合には健康保険法上の保険医登録の取り消しなど重大な不利益処分が下る可能性が出てくるわけですので、そういった場合、ご心配な時にはなるべく早めに弁護士などの専門家にご相談をされて、その後の対処法を考えていくということが大切かなと思います。
今日の話は以上です。
著者プロフィール
奥田貫介 弁護士
おくだ総合法律事務所 所長
司法修習50期 福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高校卒
京都大学法学部卒