ハラスメント~法律・法的手段の基礎知識

こんにちは弁護士の田代です。
今回の動画ではハラスメントというテーマで、基本的なことを解説いたします。法的な視点からですが、本当に基本的なことですのでお気軽にご視聴ください。

まずクイズから始めます。
セクシャルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメント、カスタマーハラスメント。
この中に英語由来の言葉が2つございます。それはどれでしょうか。
つまり英語由来じゃない言葉もこの中にはあります。

正解を見ていきます。

実は①と④です。①セクシャルハラスメント、これは英語由来です。④のカスタマーハラスメント、これも英語由来。意外と思う方もいらっしゃるかもしれませんが実はこうなります。
②のマタニティハラスメント。英語だとpregnancy discrimination。妊娠差別ですね。そういう意味で用いられることが多いです。
あと、③パワーハラスメント。abuse of authority。「職権の乱用」、そういう意味合いで使われることが多いです。

パワーハラスメント、マタニティハラスメント、あとアカデミックハラスメント。こういったものも元々和製英語なんですが、逆に海外でも少しずつそういった言葉が用いられる、逆輸入になっているという話も聞いております。ただハラスメントというのは日本独特なところもあります。特に最近ハラスメントの相談がよくありますし、企業側、あるいは労働者側の代理人としてハラスメントの問題について裁判をするということもございます。
そこで今回ハラスメントについて法的な視点から見ていきましょう。

次のクイズ、この4つ。
①セクシャルハラスメント、②マタニティハラスメント、③パワーハラスメント、④カスタマーハラスメント
この中で法律にあるものはどれでしょうか。

実は3つございまして、①から③まで。これはそれぞれ法律で定めがあります。④のカスタマーハラスメントだけは、無い。今はこういう状況です。
男女雇用機会均等法だとか、労働施策総合推進法。要は、職場の中でのハラスメントについては法律上の手当てがされている。そういうイメージになります。内容についてもどれも同じような内容ですので簡単にざっと見ますね。難しい話はいたしません。

セクハラ(男女雇用機会均等法第11条)

簡単にご説明します。まずセクハラについて、1番と2番。概ねこういう決まりになっています。
1番、セクハラって何か。職場での性的な言動ですね。これについてどうすべきかというと、雇い主は被害を受けている労働者からの相談に応じたり、職場の中に諸々の適切な措置・体制を作りましょう。そういう決まりになっています。
もう一つ(2番)、同じく雇い主は、こういった相談を受けたこととかを理由に、その被害者の労働者に対して不利益な取扱いをしてはいけませんよ、ということです。セクハラ・パワハラとかは上司が部下に対してというケースが多いんですよね。なので部下の被害者から相談を受けたことで、職場では上司をかばってしまうというようなこともありますので、そういうことがないようにというルールです。つまり雇い主に制限をかける取り決めです。

マタハラ(男女雇用機会均等法第11条の3)

マタハラ、これも同じです。
職場の中で女性労働者が妊娠したことや出産したことなどに関しての言動。これがいけない。こういった被害を受けた労働者からの相談に応じて対応するための組織づくり。
もう一つが、相談を受けた時にどうするか。11条2項の規定を準用すると書いてますが、これと同じルールです。つまり不利益な取り扱いはしちゃいけません、というのがこのマタハラですね。

 

パワハラ(労働施策総合推進法第30条の2)

最後、パワハラ。これについても同じルールです。
パワハラとは法律上の言葉でいうと、「職場において行われる優越的な関係を背景とした(例えば上司と部下)言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」。つまり上司が部下に指示をするのは当たり前ですよね。ただそれを超えた言動・行動といったもので、その被害者からの相談に応じて対応するための組織づくり。
もう一つが、相談を受けたことでの不利益な取り扱いはしてはいけませんと。法律は極めてシンプルなルールになっております。

その違反に対してはどうなるのかというと、行政から職場(会社)に対して「勧告」。組織づくりをちゃんとしなさいとかいう勧告が出て、勧告が出ても従わなければ「公表」される。こういう企業が問題のある企業として出てますということが公表されるということになっています 。

一応こういう形でセクハラ・マタハラ・パワハラの保護は、今のところ間接的なんですよね。企業にこういうシステムを作りましょうというのに留まっておりますので、法律にあるとは言ってもまだまだ不十分なところもあるのかなと思います。

ちょっと戻りますね。
30条の2、11条の3、この「~の3」とかちょっと変わった書き方かと思いますが、これは法律を新しく追加するときに、例えば30条の2を31条にすると32条からを全部繰り下げないといけない。こういうことがないように、追加する時にこういう使い方をするんですね。なので少なくともパワハラ・マタハラというのは、最近追加されたものだというものなので、まだまだ今のところは改善中であるということが分かるかなと思います。
余談でしたのでまた戻りますね。

カスハラ(法律にない)

最後の「カスタマーハラスメント」。これは法律に無いんですよね。これはお客さんからの嫌がらせというか、過度なクレームだとか苦情ですね。
ハラスメントという言葉ですね、これはもともと、その人を疲れさせるとかヘトヘトにさせるという『ハラス』という言葉が名詞になったものです。ジャッジメント・トリートメント。トリートが名詞になってトリートメント。ジャッジが名詞になってジャッジメント。同じようにハラスメント。
もともと、へとへとにさせるとか疲れさせる。お客さんがお店の人に対してワーワー言ってヘトヘトにさせる、というイメージになりますね。これについては法律がない。

1 被害者の法的手段

ただ、法律にはないけれども対抗措置がないわけではない。あります。
そこでこれを解説します。

⑴ 損害賠償請求

まず、被害者の対抗手段としては損害賠償請求ですね。例えば毎日のようにワーワーやってきたり、電話をガンガンガンガン掛けてきて、従業員が怖くなって出て来れなくなってしまった。それで業務が回らなくなった等した時に、損害賠償を請求するということはあります。

⑵ 差止請求

あと、差し止めの請求。そういった状況の中で、「もうこちらに電話してくるな」だとか、そういったことですね。これは割と新しい問題なんですが、こういったものは結構裁判で認められていることもございます。

またもう一つですね、最終は裁判なんですけれども、弁護士が窓口になってて、お客さんのクレームについてはこちらでずっと対応していく、ということでお客さんの矛先をこちらに変える、ということもよくあります。なのでこの差止請求、裁判をするというケース以外でも弁護士がお役に立てることではあるのかなという印象を持っております。

⑶ インターネット投稿の削除

他に、インターネット投稿の削除。これもまた現代的な話ですけれども、クレームがインターネット上の 口コミサイトなどに、あることないことを書かれてしまう。こういったものの削除ということも対抗手段としてはございます。

2 従業員を守る義務(安全配慮義務)

これらが対抗手段でできることなんですが、もう一つやらないといけないことも時々ございます。
裁判例の中などで、カスタマーハラスメント(クレーマー)に対して、従業員の人をずっと最前線にやったままで従業員に対応させていて、その従業員が精神的に参ってしまったとか、あるいは会社がその従業員に無理やりお客さんに謝罪をさせるというようなことをして、その従業員がもう出て来れなくなってしまったとなると、会社が責任を負うこともございます。会社には従業員を守る安全配慮義務がございますので、カスタマーハラスメントに対しては毅然と対応する。あるいは、せめてその従業員を表に立たせずに、然るべき人間が対応するというようなことも必要になることがございますのでご注意下さい。

3 医師・歯科医師の問題(応召義務との関係)

あと3番目ですね。これも実務上問題になることが時々あります。歯科医師とかお医者さんが困ってることがよくあります。医師と歯科医師には「応召義務」があるんですよね。つまり、患者さんが来た時に断ることができない。患者さんの中にはいろんな方がいらっしゃいますので、カスタマーハラスメントにあっているという医療機関はよくあります。

ただ、これについても応召義務の考え方は単純ではなくて、例えば緊急対応が必要なのかどうか、その患者さんとの信頼関係はどうなってるのか、崩れたとしたらどうして崩れているのか、あるいは弁護士が入ったかどうか、こういった点などで応召義務というのは割と柔軟に考え方が変わるんですよね。なのでこれも弁護士が入ることで、うまく医療機関と患者さんという関係のカスタマーハラスメントの状態を、改善というか変えることができるケースもよくありますので、常にこういったケースもうちの事務所では抱えているかなと思っています。そういったところで弁護士がお役に立てる分野だと思います。

まとめとしましては、今回4つのハラスメントについて解説しました。
1番から3番は、一応は法律上の規定がある。4番目カスハラについては法律にはないが、法的な手段はある・また、戦わないといけないこともある、ということです。ちなみにこのカスタマーハラスメントの法律上の手段っていうのは、他のハラスメントに対しても取り得る話、損害賠償請求なんか特にですよね。ですので、これに限られたものではないということはご理解ください。

あと最後に一言だけですね。ハラスメントを放置してた時のリスク。これについてよく問題になってますので解説します。
例えば、セクハラ・マタハラ・パワハラ。これについては、放置できないシステム作りというものがこういう法律で決まってる。ただ、まだまだそこは弱いですね。なので放置されるケースは時々あります。これは企業の内部の問題ですが、被害者から報告を受けている上司が放置をしておくというようなこと。あるいは、カスタマーハラスメントについても対応を誤ってしまうということ。これは企業側とお客さんとの関係、一対一の関係が多いですが、対応を誤ってしまう。この時は裁判リスクもあります。ただ裁判になっていない事案で今一番怖いのはやっぱり、お客さん・被害者・傍聴人からの公表というか、インターネットなどで拡散させたりとか、おもしろおかしく書き立てるということもあります。
もう一つは、今、社会全体がハラスメントに対して非常に敏感です。これは国際的にも敏感です。なので、やはりこういう問題を放置して、それが表に出た時というのは、企業生命が危うくなる。それぐらいの問題になりかねないということはございますので、この対応はしないといけない。誤った対応をしないように気をつけないといけない、ということをぜひご注意ください。

今回の動画ではハラスメントの基本的な解説をいたしました。
何かご不明な点がありましたり、あるいはお困りのことがございましたら弁護士にご相談ください。失礼します。

著者プロフィール


田代隼一郎 弁護士

おくだ総合法律事務所
平成24年弁護士登録
福岡県弁護士会所属
熊本県熊本市出身
真和高校卒
九州大学法学部卒
大阪大学大学院高等司法研究科修了

 

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