パワハラ・コロナ-ハラスメントの事後対策実際に社内調査を行う際におさえるべき基本的な調査スキーム「パワハラ防止法」に見るコロナ-ハラスメント対策④

1 はじめに―前回のおさらい

この動画は、「『パワハラ防止法』に見るコロナ-ハラスメント対策」というタイトルでお送りしているシリーズの4本目ということになります。
シリーズの中でこの動画を最初にご覧になっている方は、よろしければ1本目の動画からご参照いただけたら嬉しいです。

前回の動画では、
■パワハラ・コロハラの事後対策
ということで、社内でハラスメント被害の申告があった場合、会社として事実確認・調査を行うことの必要性と、その際に注意すべき次の4つのポイントについてご紹介いたしました。
① 迅速な着手
② 当事者双方及び周囲の社員等と面談を行い、事情を聞く
③ 相談者からの要望に応じ、調査経過・結果や判断過程を報告する
④ 公正・中立性に疑いの余地を挟まない工夫をする

今回は、これらのポイントの中から②をさらに掘り進めて、
■実際に社内調査を行う際におさえるべき基本的な調査スキーム
について解説したいと思います。

~中小企業経営者の方へ~
パワハラ防止法は、令和元年5月に成立し、令和2年6月から大企業が、令和4年4月から中小企業が、その適用を受けることになります。
そのため、特に中小企業の経営・管理を行う立場の方におかれては、今後パワハラ防止法の適用対象となるにあたり、予習としてもご覧いただけたらと考えています。

2 事実確認の方法――裁判官のマネをすればいい?

 ⑴ あなたならどうしますか?

早速ですが質問です。X社に社員Aさんと社員Bさん、それからハラスメント相談窓口にあなたがいたとして、Aさんからコロナハラスメントの相談があったとします。
Aさん: 先日コロナにかかってしまって、会社を休んでいたのですが、会社に復帰
してみると、机とイスが大部屋の隅に動かされていた。友人で同じ部署のC
さんの話では、私たちの上司のBさんが机とイスを動かしていたようです。
それが本当なら、コロナハラスメントではないでしょうか。

これに対して、問1。
Bさん:私はAさんの机とイスを動かしたりなどしていません。
という風に、両者の話が全く食い違っていた場合、あなたならどうしますか?

あるいは、問2。
Bさん:私はたしかにAさんの机とイスを移動させました。ただ、アルコール清掃
など、感染拡大防止のために他の机と離して置いておく必要があったからで
す。しかも、このことについては、事前にAさんから承諾をもらっていま
したよ。ただ、上司の私が直接すると体調の辛いときに無理に対応させてし
まうから、Aさんと気心の知れたCさんに頼んで、説明してもらったのです
が。
という風に、両者の話のうち一部は矛盾していないものの、一部食い違いがある場合、あなたならどうしますか?

 ⑵ 裁判官のマネをすればいい?

先ほどの問いのように、パワハラ・コロナハラスメントを受けたと主張する人(あくまで便宜上、「被害者」といいます。)と、その相手方(あくまで便宜上、「加害者」といいます。)の言い分がたとえ食い違っていても、相談を受けた側、ひいては会社としては、事実確認をした上で、一定の回答なり解決策なりを示さなければなりません。

ここでポイントになってくるのが、面談時に、何をどのように聞いて事実確認をするか、ということだと思います。
以下では、裁判官が裁判で行っている事実確認の方法をご紹介したいと思います。
なぜ裁判かといいますと、裁判所こそが、「言った/言わない」「やった/やっていない」等の主張の食い違いに、日頃決着をつけているエキスパートだからです。また、ハラスメント問題も、争われて最終的に行きつく先は裁判です。そのため、社内調査の段階で裁判所のノウハウを取り入れておくと、今後の見通しがつきやすくなるのです。

 ⑶ 基本的な考え方

裁判所では、概ね、以下のプロセスを辿って事実認定を行っています。

① まずは両当事者の言い分を聞きましょう

両当事者から別々に、何度か話を聞いたうえで、一致している部分と、食い違う部分を時系列に沿って整理するとよいです。一致している部分は、概ね、当該事実が存在したものと固定して構いません。

先ほどの問1だと、AさんとBさんは、180度異なる話をしていることになりますね。
また問2だと、AさんとBさんは、BさんがAさんの机・イスを動かしたこと自体は一致していて、これについてAさんの了解があったかどうかという点が食い違っているようです。

このように、事情を整理することで、調査すべきポイントをどんどん絞っていくのです。

② 次に調査すべきは、客観的証拠です

被害者や第三者が、パワハラ・コロハラ行為そのものをとらえた書類・写真・録音・メール履歴等を持っている場合は、その提出を受けて検証しましょう。人の記憶とは異なり、このような客観証拠は、改ざんされたのでない限り変容することがほとんどありません。したがって、客観的証拠からいえる事実は、存在したものと固定して構いません。

先ほどの問1だと、たとえばBさんがAさんの机・イスを動かしているシーンの写真になるでしょうか。ちょっと極端な例ですけれども。
また問2だと、BさんとCさんのやりとり(B→C:Aさんに説明し、了解を得るよう依頼)、あるいはCさんとAさんのやりとり(C⇔A:Bさんが机・イスを動かす理由の説明と了解)が、メールなどで残っていればそれが客観的資料になるわけです。

③ 第三者(周囲の社員等)の話も重要です

パワハラ・コロハラ行為の目撃者や、当事者の関係性を知る社員がいる場合は、話を聞くのがよいでしょう。
ただし、供述者の立場や話の内容次第では、その信用性を慎重に吟味しなければなりません。例えば、加害者の親友であれば、加害者に有利となるような脚色があるかもしれませんし、全く部署の違う社員が「2人の関係性をよく知っている」と言うのであれば、なぜ知っているのかということから聴取する必要があります。

先ほどのケースだと、問1・問2いずれもCさんがキーパーソンにはなりそうですが、Cさんの話だけで真実だと断じることはなかなか危ういということを、しっかりと肝に銘じておきましょう。Cさんが友人のAさん・上司のBさんどちらかに気を遣うようなタイプであれば、そちらに肩入れせざるを得ない状況だったかもしれませんし、何よりCさんの回答=真実と決め打ってしまうと、Aさん・Bさんのどちらかから恨みを買ってしまう恐れもないではないし、本体のトラブルにCさんを巻き込んでしまうことに繋がります。
いきなりCさんから話を聞き始めるよりも、もう少し周囲から確認を取っていくことをオススメします。

④ 総合考慮

以上を前提に、②③で得られた情報を駆使しながら、最終的に①で聞いた両当事者の言い分のうち、どちらがより信用できるかを判断することになります。
①と②③との間に矛盾点が多ければ多いほど、その主張は信用できない方向にはたらき、他方、概ね整合するのであれば、信用できる方向にはたらきます。

⑷ 当事者の供述しか存在しない場合(②③が存在しない場合)

ちなみに、パワハラ・コロハラが、誰にも気づかれないところで密かに行われていたというケースも少なからずあります。このような場合は、①当事者からの事情聴取を繰り返し行い、以下のポイントをおさえることで、どちらがより信用できるか、一定の判断ができようかと思います。

②´ その主張に至った経緯や動機に不自然な点はないか
たとえば、ハラスメントから1年も経って初めて、被害者が申告するに至ったというケース。それだけでは信用性が下がってしまうようにも思いますが、よくよく聞いてみると、「部署異動のタイミングでようやく申告する勇気を出した」という話が出てくる場合もあり得ます。

③´ 当事者の供述態度やその内容に、一貫性や具体性はあるか
当事者の供述に一貫性や具体性があると、その主張には一定の事実や記憶が根本にあるのだろうと推認することができ、信用しやすい方向にはたらきます。ただし、仮に一貫性や具体性を欠く場合であっても、そのことに合理的な理由がある場合は、直ちに信用できないということにはなりません。

⑸ パワハラ・コロハラに該当するかの評価

以上によって認定される事実が、実際にパワハラ・コロハラに該当するのか、会社内の基準や慣例によって判断することとなります。

3 まとめ/次回の解説内容

以上でいったん区切りたいと思います。

今回の動画では、
■実際に社内調査を行う際におさえるべき基本的な調査スキーム
について、裁判官の考え方に触れながら解説いたしました。

事実認定は、裁判所でも判断が悩まれるような難しい局面となり得るため、社内調査は、それだけで会社業務に一定の負担がかかるものです。
予め社内でプロセスを構築しておいたり、第三者の調査機関(弁護士、調査会社等)に依頼することを検討されると、いざという時にスムーズにご対応いただけるかと思います。

次回の動画では、今回の話をもう少し掘り下げて、
■ 社内調査等の末、実際に「パワハラ(あるいはコロハラ)があった」という結論に至った場合、会社としてどのような対応を取り得るのか、解説したいと思います。

次回もご覧いただけたら嬉しいです。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。