小規模会社の株主の把握~「誰」が「何株」持っているのか?
こんにちは、弁護士の奥田です。
今日は、「小規模会社の株主の把握」と題してお話をしたいと思います。
小規模会社。上場してるような会社ではなく、町の中小企業とか、そういった会社の株主。誰が何株持っているのか、これを会社の外部から把握するとかそういう話ではなく、会社内部の株主自身、あるいは会社の取締役、こういった方も実は自社の株について、誰が何株持ってるのかということについては、正しい認識ができていないというか、きちんと把握することは意外に難しい、というお話をしたいと思います。
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「登記簿」には記載なし!
株主としては誰が何株持ってるんですか?お宅の会社の株は誰が何株?株主構成はどうなってますか?というふうに会社の方に尋ねると、「それは登記簿を見たらわかります」と言われることがあるんですが、登記簿には誰が何株持ってるかということは全く載っていないことになります。これは登記簿を見てもらったら分かるのですが、登記簿に載ってるのは、発行可能株式総数と発行済株式総数。つまり、何株その会社の株が出ているのかと、ここまではわかる。総数まではわかるんですけれども、仮に100株出ていたとして、100株のうち何株を誰が持ってるという情報は登記簿には一切記載はないということになります。
「株主名簿」←作成していない場合も
それから、会社法上「株主名簿」というものを、取締役(会社)は作らなきゃいけないというふうになっていて、それ(株主名簿)を見ればわかるんだという立てつけにはなってるんですけれども、多くの会社では、この株主名簿というものをそもそも作っていないという場合が非常に多いことになります。ですので株主名簿を見てもわからないし、もっと言えば株主名簿が正確なのかというところもあって、会社が作るわけですから、どこか公的なところが作ってくれるわけではないので、正確性に疑問があるケースが非常に多いということになります。
「株券」←発行していない場合も
「株券不発行会社」
それから、株券を持ってる人が株主じゃないかと、これは一応はその通りなんですけれども、現在株券は発行されてない会社っていうのが非常に多いということになります。株券不発行会社では、株券不発行というのが基本になってますけれども、株券を発行する株券発行会社でさえも株券は発行されていないというケースも非常に多くあるということになります。
法人税申告書(別表二「同族会社の判定に関する明細書」)
ですので、株主が一体誰で何株持ってるのかというのは、実はそんなに明らかではないことが非常に多いということになります。
ただ、どうやってその株主と持ち株数を把握するのかということですけれども、株主名簿も作ってないような会社で一つ手がかりになるのは、法人税の申告というのを会社は毎年税務署に申告書を出していますから、そこに『別表二』ということで、「同族会社の判定に関する明細書」というものがあって、そこに一部株主の名前と持ち株数が載っていたりすることはあります。全部ではないのですが載ったりすることがあります。
これが一つ手がかりになるということはあるんですが、これとて税理士さんが、税金が発生するかどうかを判定するために出す程度のものですから、そんなに厳密に記載しているわけではない。多くの場合は会社の方から聞き取ってこれで間違いないですよねということでやっている程度のことが多いんじゃないかなと思いますので、これも決め手にはならない。
原始定款から
それから『原始定款』という、会社が出来たときの一番最初の定款ですね。会社のルール、取締役を設置するだとか、決算期をどうするだとか、そういうことが書いてあるのが定款なんですけれども、この原始定款(一番最初の定款)には、設立のときの持ち株数とか株主構成が書いてあることになります。
これは法務局に提出してますから、法務局に行けば一番最初のときの持ち株構成・株主構成は一応これでわかる。わかるんですけど、これは会社設立時のものですから、それから何十年も経っていると、その間に株が動いているということがありますので、決め手にはならない。
過去の株主総会議事録
それからあとは、過去の株主総会の議事録。
会社で過去に株主総会をやって、そのときにそこ(議事録)に記載がある、手がかりがあるということもありますが、これもそんなに正確なのかというところはよくわからないこともある。
「名義株」←発起人7名、譲渡無効 etc
それから最後に一番悩ましい問題として、「名義株」という問題もあります。これは典型的には、昔(昭和の時代)には、株式会社を作るには、最初に発起人(簡単に言えば最初の株主)が7人以上必要だ、ということになっていたので、会社を設立するときに、知人とかに名前だけ借りて、その人が株主として払い込んだような形をとって、それで会社を設立した、というような場合があります。
その名残で、名前を貸した人の名前がずっと残っていたりとかいうケースがあったり、あるいは譲渡無効。これは何かというと、株券が発行されている株券発行会社でもって、株式の「譲渡」ですね、相続とかじゃなくて譲渡をするとき・売買とかをするときには、ちゃんと株券を交付しないといけないということになってるんですけれども、株券を交付していないとその株式の譲渡売買は無効だということになるんですが、会社のほうでその株券を発行していないのに、株主名簿だけ変えているとか、そういったケースもあります。実際上は無効な譲渡なのに、会社の株主名簿上だけで名義が変わっていたりとかいうこともあります。
そうすると、結局決め手というのはないんですよね。結局これを見ればこの会社の株主が誰かということが100%確実にわかりますという方法は、少なくとも中小企業の場合はない、と理解していいんじゃないかなと思います。
結局「決め手」なし
ですので小規模会社の株主・持ち株数、これについては実際よくわからないことが非常に多い。それから、うちの会社の株主は誰でそれぞれが何株持ってるんだろうか、ということについては、税理士さんとかではなくて、やっぱり法律の専門家・弁護士とかに最終的には聞いて確認をする、資料を持って行って相談して確認をする、というのがいいんじゃないかなというふうに思います。
今日の話は、小規模な会社では株主がそもそも誰で、誰が何株持っているのかということは、実は会社の社長さんですら正確には把握できてないことが多い。ですので、小規模会社の株主構成の把握には、弁護士などの法律の専門家に相談されたほうが良い、と。こういうお話でした。
今日の話は以上です。
著者プロフィール
奥田貫介 弁護士
おくだ総合法律事務所 所長
司法修習50期 福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高校卒
京都大学法学部卒