ChatGPTは弁護士業務に役立つか

 

こんにちは。弁護士の尾形達彦と申します。
みなさんはChatGPTというサービスをご存じでしょうか。

ChatGPTは、OpenAIというAIの研究開発を行う団体がリリースしたサービスです。
ChatGPTでは、チャットで質問文を打ち込むとAIが文章で回答してくれます。2022年の11月末にリリースされると、ChatGPTは瞬く間にユーザーが増え、ブームになりました。

ブームとなった理由は、様々ありますが、ChatGPTが、チャット形式で文章を打ち込むだけで使えるという誰でも簡単に使えるものであったこと、大量のデータを学習済みであり回答がとても自然であったことが主な理由であると思われます。

ChatGPTを使うには、メールアドレスの登録と電話番号による認証が必要ですが、登録にかかる時間はかなり短く、利用のハードルは相当低いと思います。実際、私がChatGPTを別のメールアドレスで登録しなおしたところ、登録にかかった時間は約2分でした。
登録までのステップを簡単にお伝えします。WebブラウザでChatGPTと検索し、トップに出てくるOpenAIのサイトの、Try ChatGPTという表示をクリックして、Sign upをクリックします。あとは、ご自身のメールアドレスを登録して、電話番号による認証を行って、必要事項を記載するだけです。

さて、ChatGPTは、誰でも簡単に使用できるサービスであるために、様々な仕事に影響を及ぼすことが予想されています。私は、弁護士という専門職についていますが、たとえ専門職であっても、その影響は免れないと思います。弁護士の業務のなかにも、事務処理的作業は多く含まれ、AIによる改善の余地は大きいと思います。もしかすると、いずれ、弁護士の業務の多くがAIにとって代わられる日が来るかもしれません。

ただ、ChatGPTを試してみたところ、いずれそのような日が来るとしても、いますぐではないのだろうなと感じました。ここでは、弁護士が日常的に行っている業務に、ChatGPTがどの程度役立ちそうなのか、参考までに簡単にご紹介したいと思います。なお、ChatGPTには無料版と有料版があり、有料版の方がより賢いのですが、今回は無料版を使用した結果をご紹介します。

弁護士業務自体は多岐にわたりますが、今回はこちらをピックアップしました。
契約書作成、裁判例調査、内容証明の作成、訴状の作成です。
まず、契約書作成についてみていきましょう。

★質問文
以下の条件で離婚合意書を作成してください。
・令和5年5月31日に離婚を成立させる
・夫が妻に離婚慰謝料として100万円を支払う
・夫が妻に財産分与として、福岡市中央区城内1-1の土地及び建物を分与する。

★回答
【離婚合意書】

この離婚合意書(以下、「本合意書」という)は、夫(以下、「甲」という)と妻(以下、「乙」という)との間で、令和5年5月31日に離婚を成立させるために締結されます。

甲は、以下の条件に基づき、乙に対して離婚慰謝料及び財産分与を行います。

第1条 離婚慰謝料の支払い
甲は、乙に対して離婚慰謝料として100万円(以下、「慰謝料金額」という)を支払います。
慰謝料金額は、令和5年5月31日までに一括して支払われるものとし、乙はその受領を確認します。慰謝料金額の支払い完了後、甲に対して乙は一切の請求をすることはありません。

第2条 財産分与
甲は、乙に対して福岡市中央区城内1-1の土地及び建物(以下、「分与財産」という)を財産分与として提供します。
分与財産の所有権は、令和5年5月31日以降、乙に帰属します。
乙は、分与財産に関する登記等の手続きを行い、甲に対して一切の費用や責任を負担します。

第3条 準拠法と管轄裁判所
本合意書の準拠法は、日本国法とし、本合意書に関する紛争は、福岡地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とします。

第4条 その他の規定
本合意書に定められていない事項や、本合意書の解釈に疑義が生じた場合は、甲乙協議の上、誠意をもって解決するものとします。

本合意書は、甲乙双方による合意に基づき締結されたものであり、第三者に譲渡することはできません。
以上の内容について甲乙は了承し、本合意書を作成日(令和○○年○○月○○日)に署名・押印します。

【甲の氏名】               【乙の氏名】
【甲の署名】               【乙の署名】
【甲の押印】               【乙の押印】


簡単に条件をつけて離婚合意書を作成してもらいました。
たしかに、私が付けた条件に付いては、合意書に盛り込まれていますが、その他の、条件付けがなくても規定して欲しい、離婚合意書に一般的に規定される条項がかなり抜け落ちていることが分かります。特に、清算条項、すなわち、合意書に定められた以外には、夫婦間に何らの債権債務関係もないとして、今後お互いに法的主張ができないようにする条項が定められていないことは致命的です。また、離婚合意書として、離婚届をどちらが出すかについて及び年金分割についての合意がないのも気になります。

もう一つChatGPTが作成した契約書を見てみましょう。


★質問文
業務委託契約書を作成してください。条件は以下のとおりです。
・マンションの清掃を業務とする
・清掃頻度は週4回。年始年末、長期休業の際は別途協議する
・報酬は月額20万円
・マンションの場所は福岡市中央区城内1-1

★回答
業務委託契約書

甲(委託者)
住所:福岡市中央区城内1-1

乙(委託業者)
住所:[委託業者の住所をここに記入]

本契約は、以下の条件に基づいて甲と乙との間で締結されます。

第1条 業務内容
甲は乙に対し、マンションの清掃業務を委託します。具体的な業務内容は以下の通りです。

・マンションの共用部分の清掃
・週4回の清掃作業の実施
・年始年末および長期休業期間中における清掃作業の別途協議

第2条 清掃頻度
乙は、週4回の清掃頻度に基づき、業務を遂行します。ただし、年始年末および長期休業期間中については、別途協議の上、清掃頻度を調整するものとします。

第3条 報酬
甲は乙に対し、月額20万円の報酬を支払います。報酬は、毎月末日までに甲が乙の指定する口座に振り込まれるものとします。

第4条 契約期間
本契約の期間は、甲と乙の合意により、次の期間とします。
[契約期間の指定をここに記入]

第5条 契約解除
甲または乙は、何らの理由により、契約を解除することができます。ただし、相手方に対し、合理的な期間を設けて書面により通知することが必要です。

第6条 機密保持
乙は、甲から提供された業務に関する情報を機密として扱い、他の第三者に開示または漏洩しないものとします。

第7条 準拠法と管轄裁判所
本契約は、日本国の法律に準拠し解釈されるものとし、甲と乙は、本契約に関する一切の紛争については、福岡地方裁判所を専属的な管轄裁判所とします。

以上の内容について、甲乙双方に認識・了解の上、本契約書を締結します。

甲(委託者)       乙(委託業者)

【日付】         【日付】


簡単に条件をつけてマンションの清掃契約を作成してもらいました。
最低限業務委託契約書に欲しい、業務内容や報酬に関する規定はそれなりに定められています。一般条項についても、契約期間や契約解除、機密保持、裁判管轄といったものを規定しており、それらしくなっています。ただ、よく見ると、契約解除の条件が、ほとんど無条件になっていたり、機密保持の内容もやや投げやりになっていたり、粗があることが分かります。

このように、ChatGPTの無料版においては、あるべき条項が抜けていたり、一般条項にも粗があったりと、そのまま使うにはかなり無理がある内容になっています。一般の方が、弁護士がわりに契約書作成に使うのもお勧めできないですし、弁護士がたたき台として使うのも難しいと考えられます。

ただ、実は契約書作成については、有料版において、かなり改良がみられます。今回は紹介いたしませんが、弁護士がたたき台ととして使うには多少使えるレベルになっているのではと思います。今後の進化が期待できる使用方法と言えます。

次に裁判例調査について見ていきましょう。


★質問文
有責配偶者からの離婚請求に関するリーディングケースとなる日本の裁判例を教えてください。有責配偶者からの離婚請求に関する判断が含まれているものに限ります。

★回答
日本の裁判例には多くの離婚に関する判例がありますが、有責配偶者からの離婚請求に関する具体的な判断が含まれているものをいくつかご紹介します。

1. 最高裁判所平成16年(受刑者配偶者)判決(最大判平成16年1月31日判タ477号)
この判例では、受刑者である配偶者による離婚請求に対して、受刑者の不貞行為が有責配偶者となる要件を満たしていると判断されました。受刑者の不貞行為が明確に認定された場合には、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性があることを示しています。

2. 最高裁判所平成17年(酒類依存症)判決(最大判平成17年6月25日判タ1107号)
この判例では、酒類依存症である配偶者がアルコール依存症の治療に協力せず、家庭生活に支障をきたしている場合には、有責配偶者となり得るとされました。この判例では、アルコール依存症が有責配偶者の離婚請求の根拠となる要件を満たすことを示しています。

3. 東京高等裁判所平成28年(浮気)判決(平成28年4月15日判タ3648号)
この判例では、配偶者が浮気をしていた場合には有責配偶者とみなされることが明言されました。浮気行為が明確に認定された場合には、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性があることを示しています。

これらの判例はあくまで一例であり、具体的な事案によって判断は異なる場合があります。離婚に関する法律や判例は常に変化しているため、最新の判例を参照することが重要です。また、個別のケースにおいては、専門家や弁護士に相談することをおすすめします。


このように裁判例を質問してみました。
様々裁判例を紹介してくれていますが、実は、これらの裁判例は、すべて、実在しません。私の方で裁判例のデータベースで検索をかけましたが、いずれも見つかりませんでした。ほかにも私の方で様々裁判例に関する質問をしたのですが、回答する裁判例はすべて存在しないものでした。

残念ながら現状では、ChatGPTは、存在しない裁判例を教えてくる点で、裁判例の調査に役に立ちそうにありません。これは有料版においても同じでした。おそらく、日本においては、裁判例のWeb公開が進んでおらず、ChatGPTの学習データに十分な裁判例が蓄積されていないためではないかと思います。

弁護士の業務としての裁判例調査は、裁判例のデータベースがあるにはあるものの、手作業的な面が大きいのが現状です。もしChatGPTが裁判例調査に役に立つのであれば、作業時間の短縮が図れるだろうと期待していただけに、これは残念な結果でした。

次に、内容証明の作成です。弁護士は内容証明という手紙を、交渉相手に送ることがよくあります。今回は、依頼者が傷害事件に巻き込まれたため、加害者に慰謝料等の請求を行いたいという前提条件で内容証明を作成させてみました。


★質問文
内容証明の手紙を以下の条件で作成してください。
・弁護士尾形達彦が、被害者を代理して、加害者に宛てて出すもの
・被害者は、令和5年4月1日の傷害事件により、加療1か月の怪我を負った
・被害者は、加害者に、当該傷害事件に関して、治療費等実費と慰謝料、あわせて200万円を請求する
・以降の連絡は弁護士尾形達彦あてにしてほしい

★回答
【封筒の宛先】
加害者の住所
加害者の氏名(もしくは通称)

【手紙の日付】
令和○年○月○日

【手紙の件名】
被害者代理人による請求書

尊敬する○○様(加害者の氏名もしくは通称)、

私は、被害者を代理し、この手紙をお送りしています。私の名前は、弁護士尾形達彦と申します。

被害者は、令和5年4月1日に発生した傷害事件により、重傷を負い、治療のために1か月間の加療を余儀なくされました。この事件は、被害者の身体的な苦痛や心的な苦悩を引き起こし、その結果、被害者には多大な損害が生じました。

この手紙により、被害者は当該傷害事件に関連して、以下の請求を行います。

1. 治療費等実費:
被害者は、傷害事件の結果として発生した治療費、通院費、薬代などの実費を、合計金額○○円として請求いたします。これらの費用は、被害者が健康を回復させるために必要な支出であり、公平かつ適正な評価に基づいて計算されたものです。

2. 慰謝料:
被害者は、この傷害事件によって受けた身体的・精神的苦痛、心的な苦悩、人生の品質の低下などに対して、慰謝料として合計金額○○円を請求いたします。これは、被害者の苦痛や損失を補償し、事件による不利益を穏やかにするためのものです。

上記の請求について、被害者は公正な評価と合理的な解決を求めております。この手紙を受け取った後、迅速なご対応と回答をお願いいたします。加害者のご専門家や保険会社との調整にご協力いただきたく、弁護士尾形達彦宛に連絡していただければ幸いです。

被害者としては、この問題を相互に合意可能な解決に導くことを望んでおります。しかしながら、合意に至らない場合は、法的手段を検討せざるを得ません。その場合、被害者は適切な法的措置を取る権利を有しておりますことをご承知ください。

この手紙を真摯に受け止め、適切な対応をお願いいたします。被害者の損害を適正に補償し、迅速かつ公正な解決を図ることが、私と被害者の共通の利益であると考えます。

弁護士 尾形達彦


あまり良い出来とはいえませんし、日本語の手紙としてはやや不自然なところもありますが、手紙として最低限の体はなしていると思います。ただ、治療費と慰謝料の合計として200万円と指示したのに、それが守られていないなど気になるところがあります。
内容証明の手紙以外にも、感謝の手紙や謝罪の手紙を作成してもらったところ、思ったより良い内容が出てきました。ChatGPTには、以外に、エモーショル(感情的)な作業が得意なのかもしれません。また、有料版ですと、手紙の質はかなり向上することが確認できています。

最後に訴状です。先ほどの内容証明の条件に近いものを、訴訟として提起した場合にどのような訴状が作成されるか見ていきましょう。


★質問文
日本の福岡地方裁判所に提出することを想定して、以下の内容の訴状を作成してください。
・弁護士尾形達彦が、被害者を代理して、加害者に対して、下記傷害事件に関して、不法行為に基づき請求するもの
・被害者は、令和5年4月1日、福岡市中央区城内1-1前の傷害事件により、加療1か月の怪我を負った
・被害者は、加害者に、当該傷害事件に関して、治療費等実費と慰謝料、あわせて200万円を請求する

★回答
【訴状】
○○地方裁判所
民事第□□□□号

原告:
弁護士 尾形達彦
住所:〒□□□-□□□□ 福岡県福岡市中央区○○町1-1

被告:
加害者 □□□□
住所:〒□□□-□□□□ 福岡県福岡市○○区○○町2-2

被告に対する訴え

被害者の代理人である弁護士尾形達彦(以下「原告代理人」という。)は、下記の傷害事件に関して、被告に対して不法行為に基づき請求するものであり、それに基づき、次のとおり訴えます。

記   事

一、被害者は、令和5年4月1日、福岡市中央区城内1-1前において発生した傷害事件に巻き込まれ、加療1か月の怪我を負いました。

二、被害者は、当該傷害事件により、医療機関での治療が必要となり、そのために実費で治療費が発生しました。具体的な治療費の内容および金額は以下の通りです。

1.令和5年4月1日〜5月1日の入院費用      □□□□□円
2.診察料および処方薬代            □□□□□円
3.リハビリテーション費用            □□□□□円
4.その他の医療費用(具体的な内容を記載)    □□□□□円

合計                      □□□□□円

三、被害者は、加害者に対しての不法行為により身体的苦痛および精神的な苦痛を被りました。その結果、生活において不便さや心理的な苦痛を経験しており、これに対する慰謝料を請求します。その金額は200万円とします。

訴え

したがって、原告代理人は、被告に対して次のような判決を求めます。

1.被告は、被害者に対し、治療費等実費として合計□□□□□円を支払うこと。
2.被告は、被害者に対し、慰謝料として200万円を支払うこと。
3.訴訟費用は被告負担とすること。

証拠

原告代理人は、本訴状に添付する証拠書類(患者証、領収書、診断書、医療報告書など)および証人による証言によって、訴えの主張を立証します。

以上

令和□年□月□日

原告代理人
弁護士 尾形達彦


訴状はフォーマットが決まっているものなので、もし、ChatGPTがそのフォーマットを学習しているのであれば、それなりのものが出るのではないかと期待していたのですが、難しかったようです。治療費の費目を具体的に記載しようという姿勢は良かったのですが、訴状のフォーマットにのっとっておらず、これを手直しして使うのは難しそうです。また、原告が弁護士自身になっているのが気になります。

このように、おそらく、ChatGPTは、日本の訴状の学習をまだしていないため、訴状のフォーマットに沿ってくれていないものと思います。訴状については、有料版においてもあまり改良されていない様子です。

以上のとおり、ChatGPTが弁護士業務に役立つか、簡単に見てきました。あえて有用度をお示しするとすれば、上記のとおりです。

正直申し上げて、弁護士業務にChatGPTをそのまま活用するのはまだ早い気がいたしますが、有料版を試すと、活用の兆しが見えてきているなという気がいたします。ChatGPTは日々改良が続けられているところですので、引き続き、注視していきたいと思っております。
以 上

著者プロフィール


尾形達彦 弁護士

おくだ総合法律事務所
埼玉県私立西武学園文理高等学校卒
早稲田大学法学部卒
早稲田大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属