刑事手続への被害者参加

こんにちは弁護士の田代です。
今回の動画では「刑事手続への被害者参加」というテーマについてご説明致します。
皆様は「刑事手続への被害者参加」というと、どういうイメージをなさいますか?おそらく、ニュースなどで被害者の方が刑事事件に参加して意見を述べている、どこか少し遠い世界、という感覚をお持ちの方が多いんじゃないでしょうか。しかし我々弁護士の感覚としては、今はこの刑事手続への被害者参加というのはわりと身近な制度で、刑事事件の手続の中に別途被害者の方が参加することもあれば、あるいは逆に被害者を支援する立場で弁護士が刑事手続に参加するといったこともよくあります。

そこで今回は、皆様にとっても刑事手続への被害者参加を少し身近に感じていただけるように、その内容の大まかなことをご説明いたします。
犯罪自体が少なくなってこの手続が身近じゃなくなるということであれば喜ばしい事なんですが、残念ながら犯罪の数自体はそこまで減少していないということであれば、この被害者参加を利用することで被害者にとってのメリットというものがございますので、そういった点でもぜひ知っておいてください。

被害者参加して何ができる?

まずは被害者参加のメリットとは何なのかということについて説明いたします。
犯罪の刑事手続に被害者として参加してできることが1番から6番まで書いてあります。

1 公判期日への出席

まず1番目。「公判期日への出席」ということで、これは刑事事件の裁判が行われている法廷に出席するということで、これについては被害者じゃなくても傍聴が日本の刑事手続では認められていますので、傍聴人という形での出席もできます。そういった意味ではこれ自体はそんな大きなメリットはないといえばそうかもしれませんが、例えば傍聴人が多い事件には傍聴人じゃなくて”被害者”として、つまり傍聴席ではなくバーの内側で参加することもできますし、あるいは参加にあたって、例えば被告人との間で顔を見られては困るという時に顔を隠したりとか、そういったプライバシーの保護、こういった手続もございますので、これは被害者参加の第一歩ということで頭に入れておいてください。

2 刑事裁判(公判)記録の入手

次に2番目。実はこれが弁護士にとっては一番のメリットというふうに考えておりますが、刑事裁判の記録を入手することができます。これは被害者参加じゃない事件であれば意外と刑事事件の捜査の記録というのは入手することは困難です。ところが被害者参加ということであれば、まず刑事事件の裁判が始まる前などのタイミングでも、今後問題になってくる証拠の一式を入手、あるいは内容を確認するといったことができますので、今後民事での損害の賠償を検討したりとか、あるいは真実を知りたい、そういった中で(※もちろん刑事記録はまだ真実ではございません。それがこれから真実かどうかという点で裁判がかけられます。)情報にアクセスできると、これは非常に大きなメリットです。

3 被告人に対する尋問(質問)

次に3番目。被告人に対しての尋問・質問ができるということです。被告人に対する尋問は「被告人質問」と言いますが、どういうものかと言いますと、例えばテレビドラマなんかで被告人に対して検察官が問い詰める。一問一答で被告人はそれに対して答えなければいけない。もちろん沈黙はできますが沈黙をしてたら、なぜ黙ってるのかということで色々と質問をされる。この手続を検察官じゃなくて被害者も行うことができる、こういった制度がございます。なので被告人に対して、例えば謝罪の言葉を聞きたいとか、弁解の内容が納得できないので直接質問したい、といったことについて被害者として質問するということ。そういった制度の利用ができます。

4 被告人以外の関係者(証人)に対する尋問
→ 情状証人に対する反対尋問のみ

次に4番目。これは被告人以外の関係者、これを「証人」といいますが、それに対しての質問、これにも参加はできますが、これについては「情状証人」に対する反対尋問のみという制限がございます。この「情状証人」というのは何かと言いますと、”犯罪が有罪か無罪かに関しての証人ではない方”です。
例えば事件の目撃者で、犯人はこんな色の服を着ていた、犯人はこの人だ、というような証人ではなくて、犯罪自体はもう認めている事件で、被告人の奥さんとか保護者とか、そういった人が、「こうやって監督していくので寛大な処分をしてください」と、そういう証人が来た時に反対尋問に参加できる。例えば、「監督をしていくといいますけれども具体的に何をされるんですか」と。それに答えたのに対して「でもあなたはそれまでそういったことを監督されてきたでしょう。それで今回の事件が起こってそれで何が変わるんですか」というような質問など。こういう反対尋問が被害者として独自に可能です。 誤解がないように言いますと、こういうのは全部質問する側としての参加ですよね。当然、事件の被害者として証人として発言する、そういったことについては被害者として刑事手続に携わることがほとんどですのでその点は頭においてください。

5 心情に関する意見陳述

5番目。質問などで一通り証拠整理が終わりましたら、最後、判決の前に被害者として今の心情を述べることができます。事件があってどんな思いをしているのか、今どういうことを望んでいるのかとか、そういった心情を意見陳述ができる。これ自体証拠として裁判官が結論を決める時に、その意見の内容も踏まえて結論を出します。 これが心情に関する意見陳述です。

6 被害者論告(事実・法律の適用に関する意見陳述)

最後に6番目。これも意見陳述なんですが、いわゆる「被害者論告」と言いまして、その判決の前の大詰めのところで、通常、検察官が「論告求刑」というものを行いまして、例えば、被告人はこうこうこうで非常に罪状悪質だと。そこで「被告人に対して懲役何年の判決を求める」というような求刑です。論告求刑は検察官が行いますが、独自に被害者として同じように論告ということと、それとさらに求刑、どういった刑罰の適用を求めるのかといったことの意見を述べることができます。
たとえば被害者自身は被告人を死刑にしてほしいと強く望んでいるけれども、検察官からは死刑を求める求刑がなされなかった時には、素直に被害者の気持ちとして被告人には死刑を求めますと、そういうことを伝える機会がある、そんな形で理解いただければと思います。

概ね刑事手続に被害者として参加した場合にはこういった形で、基本的には最初から最後まで刑事手続に関わることができます。当然そこは刑事手続の結論にも影響しうる話ですので、ここは被害者の権利として頭においてください。

誰が被害者参加できる

1 対象となる犯罪

誰が被害者参加をすることができるのかですが、まず対象となる犯罪はどういった犯罪なのかと言うと、イメージしやすいものとしては、まさにニュースであってるような重大事件。重大事件というと殺人・強盗致死・傷害致死など、つまり生命を奪ったような犯罪、これは非常にイメージしやすい重大事件です。

ただ、じゃあそういった事件に限られるのかと言いますと、意外とそうではない。例えば傷害事件、例えば喧嘩じゃないけれども殴って怪我をさせてしまったというような事件でもそうですし、わいせつ事件で強制わいせつ事件というものとか、もちろん強制性交とかもそうですけれども、強制わいせつ事件というのとか、あるいはこれも多いんですけれども、交通事故の被害者ですね。車にはねられて怪我をしたという方とか、あるいはその方の遺族とか、そういう交通事故の被害者という方も参加は可能ですし、現にそういった方で参加されてることも非常に多くあります。

あと、どういった事件に参加できるのかと言うと、大まかに言うと3番目ですね。財産犯、つまり財産に対して危害を加える窃盗・詐欺・横領とかお金を取った、とかです。そういう財産犯とか、あるいは性犯罪の中で罰金刑のもの、迷惑防止条例とか痴漢の中でも悪質性が低い(と言うと誤解があるかもしれませんが)、強制わいせつに至らないような痴漢の事件とか、そういったものぐらいは例外・除外されてるんですけれども、そういった事件以外は広く被害者参加ができるということになりまして、私の印象としては意外と多くの犯罪がこの被害者参加の対象になります。

2 被害者等

次にこの被害者参加というと、被害者だけなのかという問題ですが、ここもそういうわけではございません。もちろん被害者本人は被害者参加できますが、たとえば被害者自身が亡くなっている時とかはもちろん参加出来ませんし、あるいは身体や心の問題で自分で参加できるような状態じゃない時には、被害者の家族の方が参加することもできます。
また被害者本人にせよ被害者のご家族にせよ、自分で参加するだけじゃなくて弁護士を代理人として参加する、弁護士と一緒に法廷に行って手続に参加することもできますし、弁護士にお願いするということで代わりに出席してもらって意見を述べたり、あるいは質問を代わってしてもらったりといったことも可能です。なので弁護士はこういったところで被害者をサポートする立場になることもございます。

被害者参加のための費用援助

ただここで問題になるのが、費用面ですね。ただでさえ犯罪の被害に遭ってる中で費用をどうするのかという問題がございます。

1 国選被害者弁護士制度

これについても制度でサポートされておりまして、一つが「国選被害者弁護士制度」。「国選」というと、犯罪者を弁護するのに国が費用を出した「国選弁護人」がよく知られていますが、被害者をサポートする弁護士、これにも国選という制度がございます。同じく国がその費用を負担するんですね。国に選んでもらう弁護士、誰もあてがないから 国の方で選んで欲しいということも可能ですが、自分がこの先生にお願いしたいという方がいらっしゃって、でも費用をサポートしてほしい、自分は費用を持たずに国から出してほしいと、こういった形でも利用することができます。

ただ唯一問題があるのは、費用を負担するにあたっては資力の問題があって、大まかに言うと現金・預貯金などの資産が200万円に満たない方については利用が可能です。ただ200万円を超える方でも、その犯罪によって例えば治療費とかそういう支出で、そういったものを考慮すると結局200万円に満たない方も利用は可能ですので、是非この点は弁護士に相談していただいた方がいいかなと思います。

2 被害者参加人に対する旅費等の支給

もう一つございますのが、被害者参加人として参加する時には、裁判所までの交通費・日当は国から支給されます。これは裁判所への距離にかかわらず出るんですが、さらに遠方の方で宿泊が必要なケースでは、宿泊料についても国から支給されるといった制度もございますので、ぜひ被害者参加するのであればそれとセットで申請していただくということをご検討いただければと思います。

いずれにしてもこの辺りについては実際に弁護士に依頼するかどうかはさておき、まずは身近な弁護士にご相談いただいた方がいいんじゃないかなと思います。

以上、今回の動画では刑事手続への被害者参加というテーマについて解説いたしました。
この動画をご覧になられて、何かわからないことや相談してみたいことがございましたら、是非お気軽にご連絡ください。

著者プロフィール


田代隼一郎 弁護士

おくだ総合法律事務所
平成24年弁護士登録
福岡県弁護士会所属
熊本県熊本市出身
真和高校卒
九州大学法学部卒
大阪大学大学院高等司法研究科修了