こんにちは弁護士の奥田です。今日は「小規模企業の M & A、 株主は誰か」というテーマでお話をしたいと思います。小規模企業の M & A で大きな問題となる点の一つとして、その人が本当に株主なのかということがあります。それについて説明をしたいと思います。
こういう事例です。M & A の対象会社は平成10年に設立をされました。その時に100株が発行されてまして、株主Aが50株、株主 B が50株という形で50株ずつAとB で株を持っていました。
ところが平成15年にAとB で話をして、AがBから50株を買い取りましたということで、その結果株主Aは100株、株主Bはもう0ということで株主ではなくなりました。そういうことで現在まで来ております。
この会社ではこれまで一度も株券というものは発行されたことはありません。こういったような場合に M & A の買い主としては Aを100株100%の株主と見て、Aに対して株の対価を払って株式を譲り受けるという形の M & A で本当にいいのかといったような話です。
結論から言うと今回のケースではそれは駄目だということになります。大切なことは株券の交付のない株式譲渡は無効であるといったことが原則だということを知っておいてほしいと思います。
この点については平成16年に商法の改正がありまして、それ以降は株券を不発行とするという会社の存在が認められることになったんですけれども、それ以前平成16年の改正以前は、全ての株式会社においては株券の発行が建前となっておりまして、なおかつ株券の交付のない株式の譲渡、これは売買だとかあるいは贈与だとかそういったものですけれども、株券の交付のない株式譲渡は法律上無効であるといったような事になるわけですね。
そうすると今回の事例、平成15年の譲渡の時には株券はこの会社では今まで一度も発行したことはないということですので、この平成15年の譲渡の時にも株券のやり取り・交付は行われていないということになるわけです。そうすると平成15年の譲渡は法律上無効ということになりますので、現在の株主は法的にはAが50株・Bが50株のままだったようなことになるわけです。
じゃあこういった会社を M & A で買おうとする時にどういう風な対応がありうるのかということですけれども、基本的には三つ程度の対策があるかなという風に思います。
①株券を発行して、株式譲渡をやり直す
一つはちゃんと株券を発行して、この平成15年の譲渡を株券の交付からやり直すといったような方法、この方法が一つあります。
②株式譲渡契約に特別補償の条項を入れる
しかし往々にしてもう B と連絡が取れないとか、あるいは B が亡くなっていて相続人が誰かもわからないとかそういったようなケースもあります。
そういった場合には譲渡のやり直し、株券発行による譲渡手続きのやり直しということは選択肢として取り得ないといったような場合もあります。そこで2番目の方法としては、このAから買い取るわけですけれども、その株式の売買契約書の中に、将来万一B の方からクレームがあった場合には、きちんと金銭的な補償を M & A の買い主に対してやりますよといったような特別補償条項と呼ばれるようなものを入れておくといったような方法ですね。こういった方法もあります。ただ特別補償条項を入れていたとしても、将来BあるいはB の相続人が出てきた時にはかなりのトラブルになることが予想されますので、特別補償条項によってもリスクが完全に払拭されるというわけではありません。
③株式譲渡以外のM&Aスキーム(株式交換など)を考える
それから3番目の方法としては、もう株式譲渡以外の M & A スキームを考えてみる検討するという方法があります。例えば法律上組織再編と呼ばれるような株式交換だとかいったような特殊な会社法上の手続きをとるといったような形。あるいは事業譲渡だとかそういったような形。そういう株式譲渡以外のスキームを考えてみるという方法ですね。こういった方法も3番目の方法としてあります。
いずれにせよ意外と小さな規模の会社の場合には、この株券交付のない株式譲渡が過去に行われているといったようなケースは非常にしばしば目にするところであります。ですのでそういったような場合、そういった懸念がある場合にはぜひ弁護士などの専門家に相談をされて適切にリスクに対処していただければという風に思います 。