Q.商店を会社にする準備を進めていますが、出資されるお金を予定どおり集めることが難しくなってきました。とりあえずお金を借りて出資として払い込んだ後にすぐに返せばいいでしょうか?

A.会社の「定款」に定められた出資される財産について払込みなどを行うことを「出資の履行」といいます。定款で定められた出資される財産は、実質的に払い込まれなければなりません。
「発起人」などが銀行から借入れをして株金の払込みを行い、会社の設立後すぐに引き出して返済することは、会社の営業資金が確保されたとはいえないため、無効とされます。

こうした仮装の払込みをした「発起人」などは、会社に対して仮装した全額の支払いをしなければならず、全額の支払いをした後でなければ「株主」としての権利を行使することができません。
会社設立の際には、実際に事業を行うために必要な金額を適切に見積った上で確実な資金調達を計画するため、企業法務に専門知識のある弁護士にご相談ください。

1 「出資の履行」の必要性

「株主」は、株式会社にお金を貸した債権者などに対して直接責任を負わず、「株式」の引受価額の限度でしか責任を負いません(間接有限責任)。このことから、会社の債務の引当てとなるのは会社の財産に限られることになります。そこで、株式会社の債権者の保護を図るため、会社の設立に際しては、「出資される財産の価額又は最低額」が「定款」で定められ、実質的に払い込まれなければなりません。

「出資される財産の価額又は最低額」を払い込むのは、設立の企画・事務を行い「定款」に署名等をした人(発起人)や「株式」の引受け・出資する人(引受人)です。

設立に際して出資される財産は、会社や債権者にとって重要なものであるため、「発起人」などが「出資の履行」に関して不正を行えば、民事上の損害賠償責任を負ったり、刑事罰が科されたりすることがあります。
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2 仮装の払込み

仮装の払込みの代表的なものとして「預合い」と「見せ金」があり、こうした仮装の払込みは無効とされます。

(1)預合い

発起人などが株金の払込みを仮装するために、株金の払込みを取り扱う銀行(払込取扱機関)の役職員らと通謀して行うことは、「預合い」とよばれます。
例えば、発起人が払込取扱機関からお金を借入れて同機関に預金し、その借入れを返済するまでは預金を引き出さない代わりに、出資の払込みを行ったという書類を払込取扱機関に作ってもらうことは、「預合い」にあたります。
「預合い」は、金銭の移動が全くないため、払込みがなされたとはいえません。
発起人などが「預合い」をすれば、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金という重い刑罰が科されます。

(2)見せ金

発起人などが株金の払込みを仮装するために、払込取扱機関以外から借入れをし、株金の払込みにあて、会社の成立後すぐにそれを引き出して借入れを返済することは、「見せ金」とよばれます。
「見せ金」は、金銭の移動はあるものの、会社の営業資金が確保されたとはいえないため、実質的に払込みがなされたとはいえません。
発起人などが「見せ金」をすれば、会社法では罰則はありませんが、登記の際に「公正証書原本不実記載罪」という刑法上の犯罪にあたる場合があります。

3 「発起人」などの責任

平成26年に会社法が改正され、仮装の払込みを実行した「発起人」や「引受人」は、会社に対して仮装した全額の支払いをしなければならなくなりました。仮装の払込みを実行した「発起人」などは、職務を怠らなかったことを証明しても免れることはできません。しかし、仮装の払込みに関与しただけの「発起人」などは、職務を怠らなかったことを証明すれば、全額の支払いの責任を免れることができます。
仮装の払込みが行われた場合、「発起人」などは、全額の支払いをした後でなければ「株主」としての権利を行使することができません。

さらに、「発起人」などが設立について任務を怠れば、会社に対して損害賠償責任も負うことになります。
設立に際して出資される財産は、実際に事業を行うために必要なものであり、その一部は「資本金」として会社の資力の目安となるなど、会社や債権者にとって重要なものです。会社設立の際には、実際に事業を行うために必要な金額を適切に見積った上で確実な資金調達を計画するため、企業法務に専門知識のある当事務所にご相談ください。