Q.小さな工務店を株式会社にして経営してきましたが、ベテランの従業員に事業を引き継がせたいと考えています。取締役の地位の引継ぎはどのようにすればいいでしょうか?

A.中小企業では現経営者の経営手腕に依存していることが多いので、「事業承継」のためには「資産」の承継である「物的承継」だけでなく「ヒト」の承継である「人的承継」が重要となります。

現経営者が営業・販売・技術などの全てを1人で行っている場合、新たに「取締役」となる後継者の負担が大きいため、営業部門・技術部門などの責任者を新たに「取締役」に選任するとともに、後継者を「代表取締役」とすることが考えられます。

取締役の地位を後継者に引き継がせるためには、後継者を「株主総会」で取締役に選任した上、後継者の承諾が必要となります。会社を対外的に代表する「代表取締役」に後継者を選任するには、「定款」などの定めに従い「株主総会」の決議などによって選任します。

経営理念・技術・得意先関係などの「知的資産」の引継ぎについては、ノウハウなどを文書化したり、後継者などが取引先などから信用を得たりする必要があるため、数年をかける計画で事前に準備をしておく方がよいでしょう。

具体的にどのように会社の組織を変更して取締役の権限を分配し、経営理念・技術・得意先関係などを引き継いでいくかについては、現経営者と後継者の関係、株主の構成などによって異なりますから、企業法務について専門知識のある弁護士にご相談ください。

1 「事業承継」で引き継ぐもの

「事業承継」とは、現経営者から後継者へ事業を引き継ぐことをいいます。
「事業承継」では、現経営者から後継者という「ヒト」、自社株式・事業用資産・資金といった「資産」、経営理念・技術・得意先関係などの「知的資産」の3つが引継ぎの対象となります。
中小企業では現経営者の経営手腕に依存していることが多いので、「事業承継」のためには「資産」の承継である「物的承継」だけでなく「ヒト」の承継である「人的承継」が重要となります。

2 人的承継

中小企業では、取締役の地位など「ヒト」に付随して経営理念・技術・得意先関係などの「知的資産」も承継されると考えられます。このことから、取締役の地位の承継では、「ヒト」と「知的資産」がうまく引き継がれるようにすることが必要です。

(1)「ヒト」の承継

中小企業では、現経営者が営業・販売・技術などの全てを1人で行っていることが多くあります。このような場合、新たに「取締役」となる後継者の負担が大きいといえます。そこで、後継者の負担を減らすため、営業部門・技術部門などの責任者を新たに「取締役」に選任するとともに、後継者を「代表取締役」とすることが考えられます。
取締役の地位を後継者に引き継がせるためには、後継者を「株主総会」で取締役に選任した上、後継者の承諾が必要となります。
後継者の教育には時間がかかりますし、株主が1人で「取締役」を兼ねている「1人会社」の場合は現経営者が亡くなると取締役が欠員となるため株主総会が招集できなくなりますから、事前に準備をしておくことが必要となります。
会社を対外的に代表する「代表取締役」に後継者を選任するには、「取締役会」があれば「取締役会」で、「取締役会」がなければ「定款」などの定めに従い「株主総会」の決議などによって選任します。

(2)「知的資産」の承継

経営理念・技術・得意先関係などの「知的資産」については、ノウハウなど目に見えないものを文書化しておく必要があります。
経営理念や技術の引継ぎには会社に応じてそれぞれ必要な時間が異なるでしょうし、得意先関係などについては後継者や新たに会社の役員等になる人が取引先などから信用を得るなど、人との結びつきを維持する必要があるといえます。
こうしたことから、取締役の地位の承継には数年をかける計画で事前に準備をしておく方がよいでしょう。

3 取締役の地位の承継のご相談

現経営者が起業し育ててきた中小企業では、現経営者が営業・販売・技術など全てを行い、従業員からも取引先や銀行からも信頼を得ていることが多くあります。こうしたカリスマ的な魅力のある現経営者が引退してしまうと、従業員の意識や取引先との関係が変わってしまうことも多くあります。
したがって、人的承継を成功させることが中小企業の「事業承継」の中でも最も重要といえます。
「人的承継」を成功させるためには、代表取締役の権限を分散させることが必要となることもあり、そのためには法律や会社の「定款」に則って会社の組織を変更する必要が出てきます。
具体的にどのように会社の組織を変更して取締役の権限を分配し、経営理念・技術・得意先関係などを引き継いでいくかについては、現経営者と後継者の関係、株主の構成などによって異なりますから、企業法務について専門知識のある当事務所にご相談ください。