Q. ビルの清掃会社を経営しており、大手のビルメンテナンス業者と清掃の下請契約をしました。この契約のため清掃機器やアルバイトを増やして作業に取りかかったところ、大手のビルメンテナンス業者が契約を解除すると言い出しました。清掃機器やアルバイトの代金を支払ってもらえないのでしょうか?

A. 契約した債務を行わないことに基づく損害賠償請求などは「民法」という法律により請求することになります。
そして「民法」とは別に、親事業者の下請事業者に対する取引の公正化・下請事業者の利益保護を目的とする「下請法」という法律があります。

事業者の資本金規模にもよりますが、「下請法」の対象となる取引には、役務の提供行為を他の事業者に委託する「役務提供委託」があります。例えば、ビルメンテナンス業者が請け負ったメンテナンスの一部であるビルの清掃を清掃業者に委託する場合は「役務提供委託」にあたります。

契約した債務を行わないことに基づく損害賠償請求などについては、裁判よりも迅速・簡便に解決できる「調停」という手続きを利用することもできます。

「下請法」が適用される要件は細かく決まっていますから、下請契約について不当な要求をされた場合にどのような対応が適切かを判断するには企業法務に専門知識のある弁護士にご相談ください。

1 「下請法」とは

契約した債務を行わないことに基づく損害賠償請求などは「民法」という法律より請求することになります。
そして「民法」とは別に、親事業者の下請事業者に対する取引の公正化・下請事業者の利益保護を目的とする法律として「下請法」(下請代金支払遅延等防止法)という法律があります。

「下請法」では、一定規模の親事業者が行う取引について、禁止行為が定められており、公正取引委員会が親事業者の禁止事項に違反する事実があると認めるときは親事業者に対して必要な措置を勧告することが定められています。

「下請法」は、中小企業にとって不当な要求を防止・是正する効果があるといえます。

2 「下請法」の対象

「下請法」の対象となる取引は、事業者の資本金規模と「製造委託」・「修理委託」など取引の内容で異なります。

「製造委託」には、物品の販売を業として行っている事業者が物品の製造・加工を他の事業者に委託する場合などがあります。

「修理委託」には、物品の修理を業として請け負っている事業者が修理行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合などがあります。

「情報成果物作成委託」は、電子計算機のプログラム・映像・デザインなどの作成行為を他の事業者に委託することをいい、ソフトウェア開発業者が請け負ったソフトウェア開発の一部を他のソフトウェア開発業者に委託することなどがあります。

「役務提供委託」とは役務の提供行為を他の事業者に委託することをいい、ビルメンテナンス業者が請け負ったメンテナンスの一部であるビルの清掃を清掃業者に委託する場合などがあります。建設工事については、「下請法」は適用されませんが、「建設業法」で「下請法」と同様の規制がなされています。

親事業者 下請事業者
物品の製造委託・修理委託など 資本金>3億円 資本金≦3億円
3億円≧資本金>1千万円 資本金≦1千万円
情報成果物作成委託・役務提供委託 資本金>5千万円 資本金≦5千万円
5千万円≧資本金>1千万円 資本金≦1千万円

3 下請取引についてのご相談

契約した債務を行わないことに基づく損害賠償請求などは「民法」という法律で定められており、裁判では「民法」で定められた要件について主張立証することになります。
しかし、裁判では時間も費用もかかるため、裁判よりも迅速・簡便に解決するための「調停」という手続きを利用することもできます。

中小企業は大企業に比べて弱い立場にあるため不当な要求に応じてしまいがちですが、「下請法」をよく理解していれば不当な契約を防ぐことができます。

「下請法」が適用される要件は細かく決まっていますから、下請契約について不当な要求をされた場合にどのような対応が適切かを判断するには企業法務に専門知識のある当事務所にご相談ください。